告白の夜から、数日。

何も変わらない。

花は届き、
航太くんは笑い、
お母さんは忙しく、
麗くんは、いつも通り店に顔を出す。

何も変わらない。

――変わってしまったのは、私だけ。



「重いよ、それ」

脚立を持ち上げようとした瞬間、
横からすっと手が伸びる。

触れない距離。

指先が、ほんの少し近づいて、
離れる。

前なら、何も思わなかった。

今は、そこに意味が生まれてしまう。

「ありがとう」

それだけ言う。

視線を合わせない。

合わせたら、揺れる。



閉店間際。

店の中は二人きり。

静かな空気。
前なら、穏やかだった。
今は、少しだけ熱を持っている。

「送ろうか」

その一言に、胸が跳ねる。
嬉しい。
本当は、歩きたい。
並んで、夜道を。

でも。

「大丈夫。近いから」

笑って断る。
麗くんは、少しだけ間を置く。

それでも何も言わない。
優しい。

だから、苦しい。



扉の前。

「じゃあ、また明日」

その声が、いつもより低い。

帰らせる。
自分から。

一歩踏み出せば、
きっと変わる。

触れられたら、
きっと崩れる。

それを、わかっている。

だから。

手は動かさない。
名前も呼ばない。

感情に、名付けない。



扉が閉まる直前。

一瞬だけ、視線が絡む。

そこにあるものを、
二人とも知っている。

でも、言わない。
私は、選ばない。

好きでも。

触れたい瞬間があっても。

帰らせる。

一線を越えない。

それが、今の私。



電気を消した店内で、
静寂が落ちる。

胸が痛い。

でも、この痛みは、
自分で選んだもの。

恋と呼べば、
形を求めてしまう。

だから、呼ばない。

名付けない。

そうすれば、
まだ壊れない。

……そう、思っている。