「好きだ」

その言葉は、まっすぐだった。
逃げも、甘さも、打算もない。
ただ、そこに置かれた。

胸が、強く鳴る。

ああ。

私は、気づいていた。
麗くんが特別だと。

重いものを持ってくれる時も、
ぶっきらぼうに守ろうとする時も、
弟の顔をしながら、時々見せる男の目も。

全部、知っていた。
そして、
嬉しかった。



「俺を好きになって」

その言葉に、呼吸が止まる。
もう、なっている。
心はとっくに、揺れている。

でも。

好きになることと、
それを形にすることは、違う。

私は一度、
好きだけで家族を選んだ。
そして壊した。

あの時の私は、
“選ばれたかった”。

今の麗くんは違う。
選ばせようとしている。
それが、痛いほどわかる。



「……ありがとう」

それが、精一杯だった。

麗くんの目が揺れる。
傷つける。
わかっている。

それでも。

「私ね、今のままが好きなの」

逃げではない。
本音だ。

この距離で笑っていられる時間。

航太くんがいて、
2人のお母さんがいて、
麗くんがいる。

壊したくない。
この笑顔の関係を、壊したくない。

「恋は、しないって決めてるの」

静かに言う。

自分に言い聞かせるみたいに。

胸の奥では、
違う声がする。

――嘘つき。

でも、選ぶ。
私は、形にしない。

好きでも。

好きだからこそ。



麗くんは何も言わなかった。

怒らない。
縋らない。

ただ、まっすぐ見ている。

その目が優しくて、
余計に苦しい。

私は笑う。
いつもの、姉の顔で。

「麗くんは、ちゃんと幸せになって。
麗くんは、私じゃなくても幸せになれるから」

その瞬間。
彼の表情が、ほんの少しだけ変わった。

ああ。
これでいい。
これでいいはず。

扉が閉まる。

一人になった店内で、
胸を押さえる。

認める。

私は、麗くんが好きだ。

でも、
恋を形にしない選択を、続ける。

それが、私の守り方。