昼の俺は、Reyじゃない。

家では兄として笑い、
夜は別の顔を持つ。

けれど大学では、どこにも属していない。

講義を受け、ノートを取り、
適度に笑い、適度に距離を取る。

友達らしい友達はいない。

整った顔立ちと無口な態度が、
勝手に“クール”という評価を作る。

告白も何度かあった。

「好きです」

そう言われても、胸は動かない。
興味がないわけじゃない。
ただ、選ばないだけだ。

手に入れた瞬間、壊れるものを知っている。
恋愛は、自分には向かない。
そう思っていた。

周りは将来の話をする。
就職、夢、安定。

俺は笑って相槌を打つ。

けれど、本当の自分がどこにもない。

大学生の俺も、
兄の俺も、
夜の俺も、

どれも本物のようで、どれも仮面だ。



その日、母の頼まれごとをメッセージした。
だが、志乃からの返信が少し遅かった。

それだけで、落ち着かなくなる。

理由はわからない。

何かあったか?

仕事前だというのに、
気づけば実家へ向かっていた。

足は自然に早くなる。

そして――見つけてしまう。

花屋の前に立つ見知らぬ男。

志乃を、じっと見ている。

胸の奥がざわつく。

ただの客かもしれない。
ただの勘違いかもしれない。

なのに。

男が志乃に話しかけた瞬間、
身体が先に動いた。

「何か用ですか?」

低い声。

思ったより鋭い。

男は慌てて笑い、足早に去っていった。

何も起きていない。

志乃は言う。

「大丈夫だよ。作業が押してて、メッセージ気づかなかっただけ」

その笑顔を見た瞬間、

はぁ、と一気に肩の力が抜けた。

――これは違う。

そう思った。

守りたいんじゃない。

奪われたくない。

その感情に気づいた瞬間、
息が浅くなる。

俺は最低だ。

志乃は俺を信じている。

航太の兄として、
家族として接しているから保たれている距離感。

なのに俺は――

別の感情で動いている。

綺麗じゃない。
格好もつかない。

本当の自分がどこにもないはずだった。

なのに今、
一番醜い本音だけは、はっきりしている。

守るつもりだったのに、独占したくなった。