優しい人だと思う。

兄弟に向ける笑顔も、
家族に向ける声も、柔らかい。

なのに時々――
私にだけ、少し温度がある気がする。

それが、少しだけ怖い。


私は一度、
大好きだった人と未来を描いたことがある。

名字を名乗り、
幸せを振りまいていたこともあった。

あの頃の私は、
ちゃんと笑えていたと思う。

でも家族の中で、私は少しずつ自分を削っていった。

笑っていれば丸く収まる。
合わせていれば、うまくいく。

そうやって、私の形は薄くなっていった。

気づいたときには、
私の輪郭はほとんど残っていなかった。

壊れる前に、
私は自分で離れた。

自分を守るために、
家族を諦めた。

 

売れ残った花の水を替える。

まだ綺麗なのに。
でも、もう売れない。

誰にも選ばれない花。

その姿が、昔の私みたいだと思った。

私は――
選ばれなかった。

 

「君が好きだ」

その言葉をもらってから、
私は好きになる努力を始めた。

好きでいなければいけないと、思った。

でも、私がやっと追いついた頃には、
彼の気持ちはもう先へ進んでいた。

サヨナラは、あっけなかった。

私は、頑張って咲いていただけだったのに。

 

寂しいとも、
行かないでとも言えなかった。

私はいつも、
誰かの言葉を待つ人だった。

 

あの時、初めて自分の気持ちを伝えて
そこから離れた瞬間、

私は自由だった。

そう思ったはずなのに。

 

売れ残りの花を抱えながら、
ふと考える。

結局それでも私は、
誰かの言葉を待っているのかもしれない。

 

麗くんは、
時々、私をまっすぐ見る。

その視線に、胸が少しだけ揺れる。

彼は、私が好きなのかな。

そう思うと、ふわりと浮く。

でも同時に思う。

あの人は、
どこかで何も欲しない顔をしている。

だから――

気になる。

ただ、それだけ。