次に覚えているのはお邦ちゃんの葬儀を取り行った日だね。小さいながら村のみんながお邦ちゃんのもとへ訪れてくれたんだよ。
……ごめん。やっぱり“一人を除いて”みんなの間違いだ。
俺は日が昇る前から沈んだあとまでお邦ちゃんの家には近づけなかった。身体が向かおうとしなかった。何年もお邦ちゃんの家に通った男とは思えないよね。
だからこそ誰一人家族が起きていない時間に家を抜け出した。こんなにも村が暗く見えたのは初めてでさ。日が昇り切る前だったからだよね、きっと。
はじめに山に入った。頂上の、あの、お邦ちゃんと登った大きな木を目指して。大きな山じゃないからすぐにたどり着けちゃったんだ。薄々気がついていたけど、やっぱりこの木も命の燈が消えかかってたや。すっかり変わっちまったコイツはどこか小さく思えてしまって。もう少し大きくなかったっけ。子供が二人登っても堂々と聳えるくらいにさ。俺はコイツの上から日の出を見た。そんなところに登ったら危ないでしょ、そうやって怒らないでね。
でもさ、なんにもめでたくない。
俺が生きてきた中で一番憎い朝日だった。
誰にも見つかりたくない。
俺は次に川に向かう。お邦ちゃん、これだったらもう怖くないんじゃないかな。いつの日かお邦ちゃんが溺れたこの場所も今はただの陸地になったんだ。
もうすぐお昼になる頃、俺は田んぼにいた。そうそう、俺が罪人を見たところ。お邦ちゃんが俺を疑わず、信じてくれたことが嬉しかった。全部、全部もう過去のことになっちゃったね。
烏らがねぐらへ帰る頃、静かになったお邦ちゃんの家に行った。葬儀はとっくに終わったあと。もう、主人がいなくなった家は怖いくらい悲しい。お邦ちゃん、知らなかったでしょ。とってもとっても寂しいと泣いている。あ、俺がじゃないよ。この家がだよ。


