メエたんのシール

「ねえ知ってる?」

午後16時。
親友と2人、駅近くのドーナツ屋
私たちのお決まりの放課後タイム

「最近、すっご〜く流行ってるじゃない?羊が」

スクランブル交差点の駅ビジョンには
よくわからない羊のキャラクターがはしゃいで手を振るCMが流れている

店内のテレビでは夕方のワイドショー

『来年の干支は羊という事で、空前のメエたんブームがますます加速しそうですよ〜!』

キャスターの陽気な笑顔

「本当だ。あの羊メエたんっていうんだー。」
「あんた、メエたん知らなかったの?」

彼女は耳元でささやく。

「本当かどうかわからないんだけど、あのメエたんのシールを自分の持ち物に貼ると、その人はだんだん自我がなくなって、最終的には何かの操り人形みたくなっちゃうんだって…」

窓ガラス越しに、道ゆく人達を見渡せば
表情に覇気はなく
何故か、同じシールが目につく。

「何それ、都市伝説的な?」

「そう、都市伝説。なんだけど、なんか…ウチ、本当な気がしてて…。だって最近変に静かじゃない?」

確か、ニュースといえば耳にするだけで気が滅入る話題で持ちきりだったのに

再びテレビを見ると
【速報】〈国内の無犯罪記録が更新され、同時に世界記録となる〉
テロップの速報が目に飛び込んだ。

私は氷が溶けて、薄まったミルクティーを一気に飲み干し
「そろそろ帰ろっか!」
わざと明るく話を終わらせた。

お会計を済ませると、店員さんが
「こちら、プレゼントです〜!」
レシートと一緒に"あの"シールを手に持たせた。

私達は顔を見合わせて、足早に店を出た。

「…なんか変な話してごめんね。じゃ、また明日!」

彼女と別れた後
シールはゴミ箱に捨てた。
握りつぶした手の感覚が消えない。

翌日、親友は学校を休み
送ったメッセージには既読が付かず、何度かけても電話も繋がらなかった。

その夜、私は全く寝付けなかった。
空が薄明るくなってきた頃、我慢できずに彼女に会いに行く事にした。

外へ出ると
「うわ!ビックリした!…って、ねぇ!連絡つかなくて、心配したんだよ!」
そこには何故か親友が立っている。

「…ごめん」
顔色が悪く虚な目をした彼女の手には
「何で…!」
シールの貼られたスマホと
「これ、剥がせないの…それに体が勝手に動いて…嫌だよぉ」
捨てたはずの"あの"シール