【短】彼氏が三人⁉︎

ピッ、ピッ、ピッ。規則的な電子音。
ふわり、と漂う甘い香り。

「んんっ……」

怜音が重い瞼を開くと、まず視界に入ってきたのはクリーム色の高い天井だった。
視線を少し下げれば、ベッドの傍らで呆気に取られたような表情の白衣の男と目が合った。

「意識が……戻ったんですか?あー、いきなり言われても分からないですよね」

 眉をひそめる怜音に男は苦笑しながら続けた。

「怜音さんは階段から落ちて、すぐにここへ運ばれたのですが……。ついさっきまで昏睡状態に陥っていたんです。あ、私主治医の辻と申します」
「え……どれくらい眠ってたんですか?」
「二週間ですね」
「に、二週⁉」

辻の言葉に怜音が目を剥いた丁度その時、廊下からバタバタと足音が聞こえてきた。

――ガラガラッ!


乱暴に開かれた扉から姿を現したのは二人の男だった。
一人は浴衣、もう一人はネルシャツにジーンズというラフな装いだ。

「ちょっと勝手に入ってきたらダメ……」
「怜音ちゃん!」
「怜音!」

辻の静止もむなしく、男たちは怜音のベッドへと一目散に駆け寄ってきた。

「意識が戻ったんだね! 本当に良かった‼」
「怜音、久しぶり! 俺のこと分かるか?」
「えぇと……」

 荒い息遣いで左右から迫ってくる男たちは、怜音にとって恐怖以外の何者でもなかった。

「あのー。お二人は怜音さんのご家族ですか?」

ここまで口を挟もうにも挟めなかった辻が、恐る恐るといった様子で訊ねた。
辻の問いに二人の男はふるふると首を横に振る。

「「彼氏です‼」」
「か、彼氏⁉」

 驚きを隠せずにいるのは怜音だけではなかった。

「「はぁ⁉」」

二人の男たちは互いを睨み付け、今にも取っ組み合いの喧嘩を始めそうな勢いだ。
流石医師と言うべきか、辻はこの状況でも冷静だった。

「病室ではお静かに、ね? それと怜音さんの彼氏はこの私ですから」
「「「お前もかい‼」」」
「おい、どういうことだよ。怜音」
「僕とは遊びだったの……?」
「どういうことですか」
「ほ、本当に何も覚えてないんだってば‼ そもそも私、三人のこと何も知らないし」
「「「ふざけんな‼」」」
「何で辻先生までキレてるわけ……?」
「あ、じゃあこういうのはどうだ?」

 ネルシャツ男が手をポンと叩いた。

「愛してるゲーム。俺たちが順番に怜音に愛してるって言ってくの。で、怜音が照れた相手には真の恋人を名乗る資格がある」
「怜音ちゃんは誰にも渡さないよ!」
「やってやろうじゃないですか」
「じゃ、まず俺から。怜音、愛してる」
「怜音ちゃん、愛してるよ」

 ゲームは順調に進んだ。辻のターンが来るまでは。

「怜音さん、こっち見て? ふふっ、可愛いですね」
「おいっ、これずりぃだろ‼」
「し! 静かに‼」
「怜音さん、愛してますよ」

 辻はおもむろに怜音の手を取ると、優しく手の甲にキスをした。

「あいつ、やりやがった‼」
「何だかんだで怜音ちゃん、ずっと照れたね」
「まぁ、私の時が一番照れてましたけどね」
「お前、ふざけ……‼」
「まぁまぁ。私は全員にキュンとしたし、好きだな、付き合いたいなーって思っちゃったよ?」
「うっ、可愛すぎる……」
「天使、天使なの?」
「これ以上、本気にさせないでください……」

 怜音の純度100%の愛を浴びた男たちはもう勝敗など、どうでも良くなっていた。
 彼らが『怜音好き好き同盟』を組むのは、また別のお話。