まばらな拍手と不満げな表情の貴族たちの前へ出る、エルキュール殿下と着飾ったヒメナ様。
まるでその場の様々な思惑をすべて祝福とでも受け取っているのか、満面の笑顔でエルキュール殿下は両手を広げる。
「今日は私の新しい婚約者を皆に紹介する! ヒメナ・ウミイエ! 聖女召喚の儀でこの世界に現れた、歌の天女! 王都に住む者なら誰でも彼女の天より賜りし歌声を聴いたことがあるだろう! 私は彼女の歌声と、我が妻と国母となるためにこの世界の文化に少しでも染まろうと並々ならぬ努力をするその姿に惚れ込んだ。だからこそ、どうかヒメナの世界の文化にも触れてほしい! 此度の婚約発表披露パーティーはいつものパーティーとは大きく違うところがある! だがそれは、ヒメナの世界の文化だ! いずれ国母となるヒメナが、この国の淑女となるために努力しているのだ! 我々はその努力に少しでも報いるために、彼女の世界の文化にも触れるべきだろう!」
長々とした紹介と演説。
熱のこもり具合も悪くないのだが、なにぶん異世界の文化の中でも我が国にはそぐわないところを取り入れてしまった。
そのおかげで、せっかくのエルキュール殿下の演説も貴族たちの表情を和らげるほどの効果はない。
あれほどの熱弁。
取り入れる異世界の文化が“アレ”でなければ多少の賛同は得られたかもしれないのに……。
「では、我が婚約者を皆に紹介しよう! ヒメナ」
「初めまして、皆様。ヒメナ・ウミイエです」
エルキュール殿下に紹介されて前へ出てきたヒメナ様の、思った以上に綺麗なカーテシー。
なるほど、確かに努力自体はしていたのね。
あれほど綺麗なカーテシーができるようになるには、相当の練習が必要だもの。
正直、ハレノ様もギリギリ及第点。
まあ、ハレノ様は文字の読み書きの方を頑張っておられたから。
ダンスもちゃんと勉強しておられたから。
「今日は皆様、会場に入って驚かれたかと思います。でも、私のいた世界のディスコパーティーの様相を少し取り入れてみたのでどうかお楽しみください。簡単に腰や手で、こう、音楽に合わせて踊って、お酒を飲んだりして楽しむパーティー形式です! 最初は戸惑うかもしれませんが、普段のダンスよりも簡単に体を動かせて堅苦しさもなくて、いいと思います!」
と、胸を腕で挟むようにぎゅっと寄せる。
それでなくともなかなかに胸元の開いたドレスだというのに、そんなことするの……?
ユリッシュとブリジット様の方を見るとドン引き。
そ、そうよね?
殿方から見てもあれはないわよね。
ああ、エルキュール……あなたはなぜ彼女を選んだのかしら?
あれを見ても、本当になにも思わないの……?
「それから、ドリンクも色々なお酒を用意しました。どうぞお楽しみください!」
自信満々に伝えるが、会場にはフィアナのようなお酒の飲めない未成年も多い。
娘や息子を踊り子が見えないように父親の後ろなどに庇っている家族が数人いるのに、見えていないのかしら?
というか、ヒメナ様自身も未成年のはずでは?
ヒメナ様の発言に不安に思った何人かの貴族が使用人に「酒ではないドリンクはあるか?」と尋ねている声が聞こえる。
それに対して「ありません」というおそろしい返答が聞こえてきた。
頭を抱える。
いくらなんでも、誰か一人くらい止めなかったの……?
なぜそんなことに……?
「では、パーティーを楽しんでくれ!」
エルキュール殿下が宣言して階段を降りてくる。
陛下と王妃様もヒメナ様をじっと睨むように見ながら玉座に移動を始めた。
公爵がこめかみを揉みほぐしながら溜息を吐く。
そうね、一番最初にご挨拶へ行くのは公爵様だものね。
「一緒に行くかね?」
「ええ。では、ご一緒いたしますわ」
まんまと巻き込もうとなさって。
まあ、構いませんわ。
遅かれ早かれ陛下たちへのご挨拶は必要なことですもの。
ブリジット様は、と見上げるとずいぶんイタズラな笑みを浮かべておられた。
あらあら、やる気満々ですわね〜。
「ハレノは大丈夫?」
「う、うん。ちゃんと注意しないと、ダメだよね。貴族の人たち、みんな嫌そうな顔をしているもん。ヒメナがよくないことをしたんでしょう?」
「そうだね。さすがに下町の酒屋にいそうな踊り子を陛下の真横で踊らせたり、未成年もいるのに酒しか飲み物がないのは……」
「た、確かに」
ハレノ様も覚悟を決めておられる様子。
頷き合って、陛下たちの方へと進む。
貴族たちの眼差しは若干『ぜひ文句を言ってほしい』と縋るようなもの。
まあ、王族に苦言を呈することができるのは公爵家や侯爵家ぐらいなものだものね。
「この度はご招待ありがとうございます。エルキュール殿下、ヒメナ様、ご婚約おめでとうございます」
代表して公爵様が一歩前へ出て頭を下げる。
わたくしたちもその後ろでカーテシーを行い、ご挨拶。
陛下のどこか残念そうな眼差し。
王妃様は相変わらずおどおどとしており、わたくしに助けてほしそう。
ふふふ、さすがに本日ばかりは頑張ってくださいませ、王妃様。
「ヒメナ、パシュラール公爵だ」
「初めまして、公爵様。わたくしはヒメナと申します。……あ、あの、後ろにいる素敵な殿方は――」
まあ……言葉遣いも立ち居振る舞いもずいぶん淑女らしくなったと思っていましたけれど……やはり性根は変わりませんわね。
公爵様の後ろで頭を下げていたユリッシュが、ユシスの方をチラリと見る。
ユシスがすごく困惑しながら小さく首を横に振るのが見えて思わず笑いそうになった。
押しつけ合わないで、そんなところで。



