『今度召喚されてくる聖女と結婚する』と婚約破棄した婚約者が泣きついてきたんだが殴っていいだろうか?


「婚約を取りやめる気はないようだった。陛下と王妃殿下も婚約には反対のようだが……エルキュール殿下はヒメナ嬢に夢中だそうだ。彼女こそ運命の女性と言って聞かないとおっしゃっていた」
「あらまあ」

 本当にベタ惚れというやつなのですね、エルキュール殿下。
 陛下たちに言われても譲らないのであれば仕方ない。
 だが、公爵様の様子から陛下たちは相当頭を抱えていそう。
 ユリッシュが複雑そうな表情でフィアナとハレノ様の方に近づいていくのを見るに、おそらく異世界に――ハレノ様と一緒にハレノ様の世界に行くことを反対されたのではないだろうか。
 エルキュール殿下を、廃嫡にして。
 ユリッシュを、王太子に、と。
 この国の法律的に難しいことではないのよね。
 一応、王家に子が生まれなかった場合は王家の血族から養子を、と法律で許可されている。
 この国の公爵家と一部の侯爵家、伯爵家には王家の血が混じっているもの。
 もちろん、我がラクルテル侯爵家にも。
 しかし、今一番爵位が高くエルキュール殿下と歳が近い、未婚で優秀な男児はユリッシュだ。
 でもわたくしもユリッシュも知っている。
 エルキュール殿下は……本当に、王太子になるために努力をし続けてきたことを。
 ただ妻とする女性が異世界から来て、聖女様ではなかった女性だというだけで、取り上げてしまってもいい努力量ではない。
 敵対するのなら迎撃する。
 我が身と守るべきもののために、攻撃してくる相手とは戦わなければならない。
 ヒメナ様がわたくしと敵対するのならわたくしは戦う。
 エルキュール殿下がヒメナ様と絶対に結婚したいというのなら、それも致し方ない。
 本人たちが同意済みなのならば、わたくしが反対する理由はないわ。
 王命であろうとユリッシュとハレノ様はバミニオスを討伐した報酬として、どこで生きるかを選択するでしょう。
 なんにしても、今日の出方次第でエルキュール殿下とヒメナ様の婚約がどうなるかはっきりする。
 ねえ、エルキュール殿下?

「公爵様たちもも取られましたし、わたくしたちも会場に入りましょうか」
「そうだな」
「ああ、待たせてすまなかったな。では、行こうか」

 公爵様が促してくださり、ついに――いえ、いよいよわたくしは新たな戦場に入場する。
 さて、どんなパーティーの形をとったのかしら。
 ハレノ様に聞いても「パーティーなんかよくわからないですよー」と首を横に振られてしまったから……。
 と、思っていたら、まあ……なんということでしょう。

「な、な、な、な、な、な、な、な、なっっっ」
「なんなのあれは!?」
「ま、まあ……」
「なんだ、れは」
「え……え? えっ……あ、あの、ハ、ハレノ……? ハレノの世界にはこんなものがあるの……?」
「あばばばばばばば……っ!」

 国王陛下が座る玉座の真横にステージが用意してあり、そのステージの上で踊り子が十人ほど、派手な音楽に合わせて艶かしい踊りを踊る。
 あんな場所で踊っては、国王陛下の視界には絶対に入るでしょう。
 音楽も落ち着きのないもので、王都で流行ったというヒメナ様の歌った“異世界の音楽”のようだ。
 しかしわたくしが一番驚いたのは、メイドたちの服装。
 あ、あ、あ、脚が……膝の上まで短い!
 胸が大きく見え、肩は丸出し。
 どのメイドも恥ずかしそうに顔を赤くしながら、もじもじしながらお酒を配っている。
 公爵夫妻も、わたくしたちも、空いた口が塞がらない。

「ハ、ハレノ様……ハレノ様の世界には、メイドがあのような短いはしたないスカートで給仕をするのが普通のことですの?」
「普通じゃないです普通のファミレスとかでもあんなに短いスカートはないです! た、多分姫菜(ひめな)がバイトしてたメイド喫茶の基準だと思います!」
「あ、でもあんなに短いスカートは存在するものですのね……」
「ま、まあ。高校の姫菜(ひめな)のスカートはもっと短いですよ」
「「「「「もっと……!?」」」」」

 もう、男性陣は目まで大きく見開いた。
 な、なんてことなの。
 とんでもない……!

「ああ……、あ、あんなに肌の出た衣装で踊るなんて……! は、恥ずかしい……!」
「お父様、お母様、わたくしもう……か、帰ってもよろしいですか?」
「なんてはしたないんだっ」
「うちの娘にはとても見せられませんわ!」
「信じられん! エルキュール殿下とその新しい婚約者はなにを考えているのだ!? 我々を馬鹿にしているのか!?」
「帰るぞ!」

 先に入場していた子連れの貴族がこぞって踵を返す。
 ユリッシュも青筋を立てながら「僕らも帰ろうかフィアナ」とフィアナの肩を掴んでくるりと回転させる。
 ユシスもアリスの前に立ち、玉座の隣のステージから目を背けた。
 本当に、想像以上にひどい光景。
 いったいどういうつもりでこんなことをしたのかしら。
 扇を開いて、わたくしも目の上にかざす。

「国王陛下、王妃殿下、王太子殿下のご入場です!」

 まるで帰ろうとする貴族を引き留めるように、楽団が入場して叫ぶ。
 玉座の後ろの踊り場から、国王陛下たちが現れてる。
 そして、陛下と王妃様は玉座横のステージで跪いた十人の踊り子たちを見て目を見開く。
 な……っ、へ、陛下たちもご存じなかったの……!?
 明らかに不快感を示した陛下だが、すぐに大きな咳き込みをしてがまかして手をかざす。

「我が国の愛おしき我が民、臣たちよ! 今日は我が子、エルキュールの新たなる婚約者の披露の場に足を運んでくれたこと、感謝をしよう!」

 さすがは陛下。
 不満気ではあるけれど、場を鎮静化させる能力は相変わらず。