『今度召喚されてくる聖女と結婚する』と婚約破棄した婚約者が泣きついてきたんだが殴っていいだろうか?


 ユシスの意思確認もできたので、わたくしとしては十分な収穫。
 特にユシスに気になる令嬢がいたなんて。
 からかったりしないからもっと早く教えてほしかったわ。
 まあ、アリスが知ったら大騒ぎ確実だから言いたがらなかった気持ちはわかるけれど。
 
「入場が始まりますので、騎士爵、男爵、子爵家の皆様は入口の近くにお集まりください。伯爵家以上の方は控室にご案内します」
「あらあら、あれだけ事前に何度も招待状を送って来ていたのに手際がよくないわね」
「公爵夫人」
 
 あら、と頬に手を当てる。
 わたくしたちのあとからダンスホールの玄関ホールに入ってきたのは公爵夫妻とユリッシュ、フィアナ、ハレノ様。
 ハレノ様は豪勢なピンク色の大きな薔薇が刺繍されたプリンセスラインのドレス。
 思った通りとてもお似合いだわ!
 
「ロゼリアでしょ? アリュードルネ被服店に事前に依頼しておいたの」
「ユリッシュなら余裕で支払える価格でしたでしょう?」
「それはまあ。それに、こんなに愛らしいハレノが見られて価格以上だと思ったし」
「そうでしょうそうでしょう」
 
 わたくしのお母様が住むオルバグの伝統刺繍技術を使ったドレスよ。
 刺繍が施された上の布地はオルバグで作ってもらったから、王都のアリュードルネ被服店では生地を組み合わせてもらって製作してもらったの。
 わたくしとアリスが着ているものも同じ手法で製作されたドレス。
 特に力を入れたのはハレノ様のドレスだ。
 ヒメナ様に今の美しくなったハレノ様を見せつけてやろうと思って。
 
「おや? ロゼリア嬢、ラクルテル侯爵夫妻は来ておられないのかい?」
「ああ、ええ。自戒の意味も込めて当分は表には出ないで下さいと申し上げましたの」
「自戒? ……ふむ、なるほど。確かに最近のラクルテル侯爵夫妻はいい噂がないからね」
 
 公爵様にもそんなことを言われてしまうなんて。
 わたくしが思っていた以上にお父様たちは他の貴族たちからの評価が下がっていたみたい。
 もしくは、わたくしが遠征で留守にしている間になにかとんでもないやら貸しとして……?
 い、いえ、それなら影からわたくしに報告があるはず。
 
「ロゼリア嬢がブリジット殿と婚約するという話を聞いているよ。婿入りなのだろう? 早めに爵位を君が継いでくれると侯爵家も安泰なのだろけれどね」
「バミニオスが討伐された今、わたくしも次は爵位の受け継ぎだと思っておりますわ。お父様とも最近そのお話をしておりますの」
「そうかそうか。なにか力になれることがあったらなんでも相談してくれたまえ」
「ええ。ロゼリア嬢にはフィアナがいつもお世話になっているもの」
「ありがとうございます。もしもの時はよろしくお願いしますわ」
 
 公爵夫妻からそんなお言葉をいただけるなんて。
 また一つわたくしの味方が増えたわ。
 
「申し訳ございません。パシュラール公爵ご夫妻、国王陛下が別室でお待ちです」
「ああ。さて、ハレノ様をお任せしてもよろしいかな、ロゼリア嬢」
「かしこまりました」
 
 あら、ユリッシュも連れて行くのね。
 フィアナが一緒だから心配なのだろうけれど、ハレノ様を同行させない理由はなにかしら?
 
「ロゼリア先生、こんにちは!」
「ごきげんよう、ハレノ様。今日は一際お美しいですわね」
「えええ……!? い、いえいえ! ロゼリア先生こそいつもの比じゃないぐらい綺麗ですよ! 輝きが眩しすぎます!」
「「「うん、うん」」」
 
 そうかしら?
 でもまあ、そう見えるのであれば効果は上々。
 
「わたくしはハレノ様の方が美しくなられたと思うのだけれど。ねえ、アリス」
「それは、まあ……ハレノちゃんもハレノちゃんですごく綺麗になったと思う!」
「そ、そうかなぁ……」
「だってわたしが最後に見た時よりすっごく痩せて、ドレスを着こなしているもの! 本当に綺麗になったよ、ハレノちゃんっ」
「え……えへへ。アリスちゃんに言われると普通に嬉しいな」
 
 まだ入場していない家の令嬢や夫人たちの視線を浴びていることに、気づいているのかいないのか。
 自覚がないのも無理はない。
 ハレノ様は、こういう表舞台に出るのが初めてなのだもの。
 ……そういう点から見ても、ハレノ様は変わった。
 もしも召喚されたばかりの頃のハレノ様なら、絶対にパーティーには参加しなかっただろう。
 ヒメナ様に命令されたら、嫌々……という感じかしら。
 でも、今回ハレノ様は自ら参加されている。
 やはりかなりご自身に自信がついたのだろう。
 とてもいい傾向だと思う。
 そして、ハレノ様――聖女様が纏っているドレスがアリュードルネ被服店の最新作であるという素晴らしい広告塔となってくださっているわ。
 わたくしも一応着てきてはいるけれど、やはり聖女であるハレノ様が着てこそ真価を発揮していると言っても過言ではないでしょう。
 見てほしいわ、この美しさを!
 
「ユシスとブリジット様もそう思われますわよね」
「え! あ、ああ、かなり美しくなられたと思う」
「うむ。そのドレスはハレノにこそ相応しい」
「はわわわわ」
 
 ユシスとブリジット様にもお墨付きをいただいて、ハレノ様の真っ赤な顔の可愛らしいこと。
 わたくしたち以外には初めてハレノ様の姿を目にしたのだから、視線が集中しているのだけれどそれも気になっておられない。
 ――やはり、ヒメナ様とは器が違う!