『今度召喚されてくる聖女と結婚する』と婚約破棄した婚約者が泣きついてきたんだが殴っていいだろうか?


 公爵夫人が持ってきた招待状には、三日後に王宮の一番大きなダンスホールでエルキュール殿下と『王家の歌の聖女』ヒメナ様との婚約発表披露パーティーが行われる、という内容。
 数ヵ月前から行われると招待状がばら撒かれていたから、かなり遠方の貴族も王都に集まっているとか。
 
「まあ、楽しみですわね」
「た、楽しみなのですか?」
「ええ。どうせ仕掛けてくると思いますもの」
 
 アリスには不安そうな顔をされたけれど、あらかたの準備は揃っている。
 でも、最後にもう少し仕込みをしておこう。
 
「そうだわ、ユリッシュ。エルキュール殿下とヒメナ様の婚約のお祝いを直接申し上げに行こうと思っているのだけれど、あなたも来ない?」
「いいね! 僕もハレノとエルキュールがお世話になったというヒメナ嬢には、前々から一度お会いしたいと思っていたんだ」
 
 にこにこのわたくしたちに、アリスとハレノ様の口元が引き攣っていく。
 意味を理解していただいているようでなによりですわ。
 
「ずるいわ、お兄さま! フィアナも絶対ご挨拶したいっ!」
「フィアナも? 大丈夫? なかなか強烈な人物のようだよ?」
「大丈夫よ! フィアナは女神になったんだから! 国王陛下にもちゃんとご挨拶したいもん」
 
 ユリッシュと顔を見合わせる。
 まあ、フィアナもどちらにしても陛下に挨拶しにいく予定だったものね。
 いいんじゃないかしら。
 
「アリスとユシスも行くんだよね?」
「はい。その予定です」
「じゃあみんな行くんですね! わたくし、まだ社交界デビューもしていなかったから、知り合いがたくさんいるの嬉しいです!」
 
 フィアナはまだ九つ。
 基本的に社交界デビューは十二歳から。
 もちろん、交流会自体は十歳くらいから始まるけれど、フィアナは体がとても弱くてそれもできなかった。
 
「それでは三日後のパーティーまでに、社交のマナーなども教えなければいけませんわね」
「ロゼリア、うちのフィアナに教えてくださる?」
「もちろんですわ」
 
 公爵夫人に正式な依頼もされたことだし、明日からフィアナに社交のことも教えていかなければならないわね。
 優秀なフィアナに教えるのはわたくしもとても楽しい。
 
 
 ◇◆◇◆◇
 
 
 フィアナとハレノ様に社交のマナーなどを教えてはや三日。
 婚約初披露パーティーの日がついにやってきた。
 ヒメナ様もさぞや今日という日を楽しみにしていることでしょう。
 わたくしも、とてもとても楽しみだったわ。
 
「ロゼリア様、ブリジット・ジヴェ様がお迎えにいらっしゃいました」
「すぐに行きます」
 
 アリスとユシスは後ろの馬車で会場に行くだろう。
 アリュードルネ被服店に依頼しておいた最新作ドレスを見に纏い、ブリジット様の手を取って馬車に乗り込む。
 
「今日はまた一段と美しいな」
「まあ、ありがとうございます。今日で一旦、ヒメナ様との色々が落ち着くのではないかと思っておりますの」
「例のアレか。俺はなにもしなくてもいいのだろう? 俺はユリッシュの妹、フィアナが女神になった方が気になる」
「うふふ。ブリジット様らしいですわね。ええ、おそらくブリジット様のお手を煩わせるようなことには、ならないと思いますわ。こちらでもそれなりに準備はしてきましたもの」
 
 ふふ、と笑い合う。
 準備は万端。
 隙はない。
 むしろ、用意していたものすべて使わずともいいかもしれないぐらいに。
 
「どちらにしても楽しいパーティーになりそうだな」
「ええ」
 
 
 
 道中そんな話をしながらお城に到着する。
 後ろの馬車からアリスとユシスが降りてきて、合流。
 そういえばブリジット様とアリスとユシスは初対面ではないかしら?
 
「ユ、ユシス・ラクルテルと申します」
「ア、アリス・ラクルテルと申しますっ」
「ブリジット・ジヴェだ。このたびロゼリア嬢と婚約させていただくことになっている」
「す、すごい。本物だ……」
「お、お姉さますごい」
 
 心配していたけれど、ユシスのブリジット様への眼差しは尊敬と憧れ。
 こっそりとユシスに「ブリジット様のことは知っていたの?」と聞くと「魔力があまりない俺にとっては憧れなんですよっ」とのこと。
 なるほどね。
 そういえばユリッシュに対しても同じようなことを言っていたわ。
 魔力は、貴族ならば増やす方法がないわけではない。
 しかし、それでもやはり平民の母を持つユシスにとっては魔力を増やすのも一苦労。
 増えたところで伸びも悪い。
 だからユシスは魔法関係、ほとんど諦めていると言っていた。
 まあ、貴族男児ならば剣や魔法が苦手でも、統治経営が上手ければ問題はない。
 
「そういえば一応ユシスに聞いておきたかったのだけれど、ラクルテル侯爵家を継ぐつもりはあるの?」
「魔力がほとんどないのにですか?」
「気持ちを聞いているのよ。お父様と話をした時に、一方的にユシスが継ぐからと言われてはあなたにも言い分があるでしょう? 継ぐ気があるのならわたくしは応援するつもりだし」
 
 首を傾げる。
 ユシスのジトっとした目。
 まるで『なんで今聞くんだ』と言わんばかり。
 
「実は同じクラスに婿を探している令嬢がいて、もしも姉様が婿を連れてくるのであれば彼女に卒業パーティーのエスコートを申し込もうと思っています」
「まあ。それは素敵ね。わかったわ。今度そのご令嬢を我が家に招待してちょうだい」
「――いいのですか?」
「あなたの女性を見る目は信用しているけれど、一応ね?」
「あ、ありがとうございます」