「わたくし、お父様が選んだ女性ですし、お継母様自身がそのように『努力をしている』とおっしゃておりましたのでできるだけ口は出さず、見守ろうと思っておりましたの。貴族の――ラクルテル侯爵夫人としてきっといずれは恥ずかしくない淑女として振舞ってくださると、信じておりましたのよ」
これは半分嘘。
そうなればいいな、と思っていたけれど、半分はまあ無理だろうなと思っておりました。
でも、一応本人なりに努力はしているようだから、とお父様を立てて口出しはしないでおいた。
本人も指摘されるとヒステリックに拍車がかかるものね。
「わ、私は!」
「ですがもう時間の限界ですわね。わたくしは成人いたしましたし、優秀な婿様も決まりました。逆にお父様は借金まで抱えて侯爵家を傾ける。第一夫人のお母様は家から追い出し、第二夫人であるお継母様は十年近く経った今でもラクルテル侯爵夫人としての立ち居振る舞いが基準に満たない。そして、そんなお継母様を庇えるほどの力はお父様にはありません。情勢的にも世代交代が望ましいでしょう。――よもや、その引き際もわからぬほど耄碌しているとは思いたくありませんわ、お父様、お継母様」
一応、最低限二人を立てる言葉はつけ加えておく。
納得はしてもらえなくとも、状況の理解だけはしてもらわねばならないもの。
わなわなと震えて、顔をどんどん赤く染めていく継母はわたくしの言葉をどこまで理解しているのかわからないけれど。
「そ――!」
「そう、それです。淑女として、侯爵夫人として、そのように大声で怒鳴って煙に撒こうとする冷静さにかけた立ち居振る舞い。ご自分でも本当はわかっておられるのでしょう? お継母様が参加されるお茶会や夜会で、お継母様のように振る舞うご婦人がお一人でもおられましたか? おられなかったでしょう? わたくしも、お継母様には幾度となく苦言は呈してきたつもりです。それに、お継母様に貴族の夫人として相応しい教養を身につけますように、とも進言してまいりました。お継母様は一度でも家庭教師を雇って学んだり、侍女たちに貴族としての振る舞いについて確認を取ったりいたしましたか? わたくし、お継母様のためにずいぶん頭を下げてまいりましたのよ。わたくしでこれならば、使用人やお父様はもっと……でしょうね」
継母の年齢で家庭教師を雇うのも、使用人たちに教えを乞うのも気まずいのはわかる。
しかし、その結果が今だ。
すべては自分に返ってきただけの話。
というより、継母自身が『努力している』と言っても結果がこれでは世間から馬鹿にされても仕方ない。
『努力している』と言われても、こちらとしては『努力が足りない』と評価するしかないのだ。
まあ、実際口先だけで努力など一つもしてないのはわかっているけれど。
それでも一応、アリスとユシスの母だ。
本人がそう言うのなら本人的には努力したのだろう。
わたくしも主魔児であるからと努力を否定的に取られてきたから、本人の努力を頭から口先だけだと言うのは心苦しい。
わたくしの知らぬところで、もしかしたら努力していたのかもしれないしね。
「だ、だからって……こんな若いうちに当主を譲れだなんて! お前には恥がないの!?」
「お祖父様とお祖母様はお金についてなにもおっしゃっておりませんでしたが、わたくしが今のお父様を退けて侯爵家を継ぐことにはまったく反対されませんでしたわ」
「……っ!? ち、父と母に話したのか!?」
「お手紙で相談しましたの。必要とあらばお父様の説得を任せなさいと確約してくださいましたわ。それとなく国王陛下にも話しておく、とも」
「っ!」
前侯爵である、父方のお祖父様とお祖母様。
退いてはいるけれど、家督に関しては発言権が強いお方だ。
お祖父様としては大反対していた平民女性との婚姻、お膳立てで整えた正式な結婚相手であるわたくしのお母様を王都から追い出した件、さらにわたくしにはなにも言っていないけれど借金の件も……まー、積もりに積もったものでの判断の結果でしょう。
あと、一番よろしくなかったのは本来貴族ならば当然重要視される親類縁者との疎遠な現在の状況。
お母様を追い出したことでせっかく縁づかせたオルバグ辺境伯との繋がりが希薄になり、元々の親類からは平民の女性を本宅に迎え入れたことで疎遠にされて、貴族としては致命的な踏んだり蹴ったり。
家に招くという教養がない継母は、これまでのラクルテル侯爵家が繋いできた縁を見事に断ち切った。
それも無理のないこと。
だって貴族同士の婚姻は、家同士のつき合い。
ラクルテル侯爵家の縁をことごとく断ち切ってきたお父様が、わたくしをなんとかエルキュール殿下に嫁がせたくて仕方なかったのは、この孤立無援状況から脱したい思惑も強かったのよね。
だってお父様自身は、国王陛下とそんな話もできる仲ではない。
わたくしとエルキュール殿下の婚約は、お父様というよりはお祖父様の影響力が強くて取りもたれた。
お祖父様が優秀だったからこそ、お父様が平民で、自分に頼ってくれる継母にどっぷり浸かってしまった……というのは皮肉なものだと思うけれど。
「お父様、わたくし……お父様を愛しておりますわ。だからお継母様の件も、わたくしのお母様が王都から離れたことも、我慢いたしましたし陰ながらうまくいくよう助力もしてまいりました。お継母様に嫌われてもできるだけ貴族夫人として馴染めるようにと、苦言も進言も助言もしてまいりました」
「ロ、ロゼリア……」
継母には面白いほど伝わっていなかったけれど。
貴族らしい言い回しをわかっているお父様には伝わっていたでしょうに。



