なんにしても、お父様がどうやって屋敷の家具を総入れ替えするほどのお金をかき集めたのかよくわかった。
溜息を堪えて、一応、家具を総入れ替えした理由を聞いてみる。
あまり期待はしていないけれど。
「ところで、どうしてこの時期に家具の総入れ替えなどされたのですか? 以前の家具が壊れたわけではないでしょう?」
「私の誕生日だからよ!」
フン! と鼻息荒く答えてくださったのは継母。
あ……誕生日……。
え? 誕生日……で? え?
「お前やお前の母親がいた時代から使われていた家具があるの、ずっと気持ち悪いと思っていたのよ! わかる!? 他の女も使っていたと思うと! 気持ち悪いの! だからあんたたちが触ったものは全部取り替えることにしたの!」
「ああ……そうでしたの……」
わたくし、ちゃんとまともな顔をできているかしら?
代々のご先祖様たち、お祖父様とお祖母様も購入して使われていた家具を撤去した理由がそれ。
お父様も顔を土気色にしながら目を背け、わたくしの顔を見ない。
ただ、継母の言わんとしていることはわからないでもない。
同じ女としては、心情が理解できないわけではないので、家具総入れ替えの理由は、まあ……はい、わかりました。
「そんなことより! お前、当主の座を旦那様から奪い取ろうとするなんてなんて業強く張りなのかしらねぇ!? 侯爵家にはユシスという跡取りがいるのよ! お前はどこぞの田舎の変態貴族の後妻にでもなればいいでしょう!?」
一応、ちらりとお父様の方を見ると、相変わらずわたくしの方を見ることはない。
……そう、やっぱり自分が一番可愛いのね。
侯爵家のことを考えれば借金までして、自分の稼ぎだけではどうにもできなくなっている現状、自分から当主の座から離れる選択肢を取るだけの判断力も残っていないのかしら?
残っていないのね。
その場所にしがみついてでも、継母に頼られる自分でいたい、と。
では、無理矢理蹴っ飛ばしてでも、その椅子から引き摺り下ろすしかないのね。
わかりました。
「はあ……」
頰に手を当てて、小首を傾げながら溜息。
わたくしのいつもの仕草。
でも、これは最後通牒。
お父様にも通じていないようだけれど。
「ブリジット様は侯爵家に婿入りしてもよいとおっしゃってくださいましたの」
「――っ!?」
「は? 誰よ?」
お父様がすごい勢いで顔をこちらに向ける。
反対に、継母のなんという不思議そうな表情。
継母はとりあえずあとでお父様から話を聞けばいい。
というか、なんでこの国の王宮筆頭魔法師の名前を知らないのかしら?
いいえ、今更もう、そこは気にしてはいけないかもしれない。
「お父様、引き際ですわ。ハレノ様はユリッシュと恋人関係ですもの。今後は公爵家がハレノ様の後ろ盾となる。バミニオスを討伐したハレノ様は、この国だけでなく世界にも認められる聖女となられるでしょう。そんなハレノ様を射止められなかったエルキュール殿下は、どうやらヒメナ様にご執心のご様子。ですからわたくし、国王陛下にラクルテル侯爵家の当主の座を確約いただくことにしておりますの」
「な……なっ……」
「は、はあ!? なんでそことそこがそう繋がるのよ!?」
まるで意味がわかっていない継母はとりあえず無視するとして。
「わたくしが婿を取らねばと悩んでいましたら、ブリジット様がそのようにお申し出くださいました。ジヴェ伯爵家は親戚に任せっきりだったので、本格的に爵位を譲渡すればいいと。確かに、半生を海外で過ごされておられますからね」
「っ……ま、待ちなさい。エルキュール殿下のことはどうするつもりだ」
「さあ?」
冷たいだろう、と言わんばかりの、責めるような眼差しをさらりと笑顔で流す。
幼馴染としての情は、ヒメナ様を王家の聖女として公表し、婚約パーティーをわざわざわたくしたちが帰ってくるまで引き延ばすという嫌がらせ根性丸出しなんですもの、だいぶ目減りしましたわ。
そっちがその気ならこっちも迎え撃つ準備を進めるしかないではありませんか。
黙ってやられてやる義理などございません。
「さあ、って……! お前を側室にという話だぞ」
「そもそも、エルキュール殿下はヒメナ様と本当に結婚するのでしょうか?」
「え……」
「ハレノ様が歴代最強最高の聖女様になった今。そして、バミニオスという脅威が消えた今。……ヒメナ様を庇護する意味はあるのでしょうか?」
「……あ……」
お父様もここまで言えばやっと理解した。
そう、ヒメナ様の“立場”は、ハレノ様がバミニオスを倒したことで本当に“無価値”になったのだ。
「それに、ブリジット様が元の世界に聖女様を帰す術を確立しておられます。ヒメナ様が望まれるのでしたら、ハレノ様と一緒に元の世界に帰ることもできますわ」
「っそ、それは……っ」
「そうですわね。それはヒメナ様がご自身で選ばれることでしょう。ですが、この世界でこのまま生涯過ごされる理由は、もうありませんわよね」
わたくしがエルキュール殿下の側室に、という話は前提がヒメナ様と結婚されるから。
でもその前提が崩れつつある。
ヒメナ様が元の世界に帰るというのなら、わたくしがエルキュール殿下と結婚する理由はなくなるのだもの。
「しかし、それならば婚約を元に戻せばいいのだ! お前がこの国の正妃となればいい!」
「わたくし自身の婚約の話がここまで進んでおりますのに?」
「そ……っそれは……」
「お相手は王宮筆頭魔法師、ブリジット・ジヴェ様。これ以上お待たせしていいのですか? お父様――いえ、ラクルテル侯爵様?」



