「お姉さま、お帰りなさい! お帰りなさい! うわああああん! 会いたかったよぉー!」
「わたくしも会いたかったわ。歌姫に選ばれて歌ったところ、とても見たかったわ。次に歌姫として歌う町は決まっているの?」
「あ、は、はい! 王都から一番近い町に、来月……」
「まあ! それは必ず見に行くわ!」
ハレノ様も来月なら見に行くことができるのではないかしら?
元の世界に帰すための準備には、一ヵ月かかると言っておられたもの。
聖女召喚の儀でも、送還の儀でも、一人の人間の魔力が膨大に必要となる。
だから、わたくしがお手伝いしてもわたくしの魔力は使えないのよね……。
「姉様! お帰りなさいませ!」
「ユシス! ええ、ただいま」
アリスのように抱きついてはこないのだけれど、ユシスも顔に全部出ている。
わたくしのことをとても心配してくれていた顔。
「よかった……! ご無事で……っ」
「心配してくれてありがとう。でも、わたくしまだ死ぬわけにはいかないの。色々と決着をつけていないことばかりだもの」
「決着……ですか?」
「ええ」
今回の旅で、わたくしは自分にも誰かとともに生涯を過ごしたいと思う心があるとわかった。
そして、遠征で実戦を重ねた結果、タイミング的にもすべて片づけてしまってもいいのでは? と感じたのだ。
「アリス、ユシス。二人は――わたくしがいない間の侯爵家をどう思ったのか、聞かせてくれないかしら?」
「え……」
二人がお互いの顔を見合わせてから、俯く。
表情は暗く、言いづらそう。
「そう……特に変わりなかったのね」
「いえ……変わりないというよりも――」
「お姉さまの目がなくなった途端、お母さまがさらに買い物をするようになったの。お父さまはそれを止めないし、ここ数ヶ月で家の経済状況が悪化したのはわたしたちから見てもすぐにわかるぐらい」
「まあ……」
家のことにほとんど関わってこなかったアリスがそこまで言うなんて、よっぽどのことをしたのでしょうね。
いったいなにを買ったの、とユシスに聞くと、顔を顰めたユシスが「家具を。総入れ替えした」と。
そ…………総入れ替え……!?
「しかも、王家御用達の家具屋を呼んで、母様の部屋とリビングを中心に。俺とアリスの部屋や、使用人の部屋にはお下がりを無理やり押し込んできて……。入らないって言っているのに」
「わたくしの遠征に対して出された支援金かしら?」
「「支援金?」」
「王家から特別手当が出されているはずなの。支援金、という形で。一応聖女様の専属護衛という形で軍属になっている状態なのよ。つまりお給料の他に、瘴兵討伐遠征の特別手当が支援金という名で支給されていて、お継母様とお父様はそのお金を使ったのでしょうね」
まあ、お金には困っていなかったからいいのだけれど。
それにしても、わたくしに出された支援金を横領とは……さすがお継母様だわ。
でも――。
「それって、姉様のお給料を無断で使った、ということですよね!?」
「支援金ってそんなに高額なんですかぁ!?」
「いいえ。わたくしに支給された支援金は家のお金にしていただいても構わない。その代わり、別邸のわたくしの使用人たちに留守中の特別手当として色をつけていくらか渡してほしいとお願いしておいたの」
ちらり、と使用人たちを見回す。
困惑の表情が並ぶ。
つまり、お父様はわたくしのお願いを聞いてくださらなかったのね。
「その顔はなにももらえていないのかしら?」
「ええと……旦那様からは、なにも」
「お給料は増えていたかしら?」
首を横に振る者ばかり。
メニも「そのようなものはなにもいただいておりません」と眉尻を下げた。
わたくしはさぞ、意地の悪い表情をしていたことだろう。
「そう……。でも、それにしても総入れ替えをするほどの金額ではないはずね。つまり……アリスへの依頼料も勝手に使った、ということかしら」
「わたしへの依頼料……?」
「歌姫に一度選ばれると、色々な町の祝日の歌姫にお呼ばれするでしょう?」
「は、はい」
「その依頼料よ」
目を見開くアリスとユシス。
これは歌姫になれば知ることなのだけれど、基本的に未成年の歌姫に対して支払われる依頼料は親が管理する。
わたくしは当時からお継母様に嫌われていたから、全部自分で管理していたので他の歌姫よりは詳しい。
依頼料は町や村の規模で一定額。
それほど高いものではないけれど、それに移動費や滞在費が加算されて支払われるのが通例。
学園在学中に選ばれた歌姫には、護衛費も入ってくるので学園にも幾らか寄付される。
ふむ……やったわね? お継母様、お父様。
「移動費や滞在費はさすがにもらったわよね?」
「は、はい。お父様に。屋敷の執事やメイドもつけてくださいました」
「それならよかったわ。でも、おそらくそれよりも多い金額が依頼先の町から支払われていたと思うわ。そうね、では先に帳簿を手に入れた方が早いかしら。本当に仕方なのない方々ね」
「お……お母さま……お父さま……ほ、本当に、そ、そんなこと……?」
もちろん、それでも家具の総入れ替えをするほどの金額には至らないと思う。
ではどこから捻出したのか?



