お祭りをゆっくりと楽しんで、二日後。
わたくし父は王都に向けて出立した。
「それで、結局花火には間に合わなかったんですか?」
「いえ、一応ギリギリ……? 最後に大きな花火を放つのには参加いたしましたわよ?」
「あ、あ、あの一番大きいアレですか!? あ、あれロゼリア先生の花火だったんですか!?」
「ええ、ブリジット様との移籍探検が楽しすぎてテンションが上がってしまいましたの。それをすべて花火に込めて大爆発させていただきましたわ。皆さん、火耐性付与の衣装だったから大丈夫だったとは思いますけれど……やりすぎてしまいましたか?」
「人は大丈夫でしたけど一部の屋台が燃えてユリッシュさんが駆け回ってました」
「あ、あらぁ」
屋台。
それは考えていたなかった。
ユリッシュには悪いことをしてしまったわね。
一応町にも結界が張ってあるから大丈夫だと思ってつい……。
「あとで謝っておきましょう。ところで、ハレノ様はユリッシュとゆっくりとお話はできまして?」
「はい。……あの……あ、いえ……。あ、や、やっぱり相談に乗ってほしいです」
「はい。なんなりと」
にっこりと微笑んで応じる。
ハレノ様はなんとも可愛らしいもじもじ仕草で言いづらそうにしたあと、意を結したように見上げてきた。
「私……姫菜と、戦うことに、なるんですよね」
「どうでしょう? ヒメナ様次第ですわね」
「え? あれ? そ、そうなんですか?」
「はい。わたくしはヒメナ様が今どのようなお考えなのかわかりませんから、なんとも言えませんわ」
とは言ったものの、まず間違いなく会えば喧嘩を売ってくることだろう。
わたくしのこともハレノ様のことも……いえ、この国のすべてを利用しようとしておられるようですから。
衝突は――まず間違いなく、免れない。
しかしそれでも、今現在ではなんとも言えない。
当日に仕掛けてくるか、もしくはわたくしたちが王都に戻ってすぐに仕掛けてくるか。
返り討ちにできるように仕込みは終わっているけれど。
その“どれ”を使うことになるのかまでは、わからないのが実情。
「ですが、ハレノ様はお帰りになられたいのでしょう?」
「はい」
「ヒメナ様はどうお考えなのでしょうね。そのことをわたくしに相談されたかったのではありませんの?」
「……はい。それも、です」
「それも、でございますか」
少し不思議な言い回し。
でも、ああ……なるほど……ハレノ様らしい。
「ヒメナ様のことも、元の世界に帰したいのですね」
「は、はい。ヒメナは多分、この世界にいても、迷惑だと思います、し」
まあ、ハレノ様。
おっしゃるようになられましたわね。
素晴らしいですわ!
「ですが、ハレノ様。彼女とともに元の世界に戻られては、色々、元の木阿弥なのではございませんの?」
「そ……それは……でも……」
「自信がないのでしょう?」
わたくしの問いかけに、ハレノ様は俯く。
今回の旅でかなり強くなられたと思うのだけれど、やはりヒメナ様への苦手意識は相当に根強い。
それならばなおのこと、今のハレノ様は今のヒメナ様にお会いした方がいいでしょう。
「私……姫菜と元の世界に帰った方がいいと思っているんです。でも……姫菜はきっと、この世界の方が自分をちやほやしてくれるし、贅沢もできるし、帰りたくにと思ってそうで」
「まあ、そうですわね」
わたくしとしては「そうかしら?」と首を傾げてしまう。
この世界の女子は生きづらい。
ハレノ様の世界の話を聞くと、男女で就ける仕事に差は少なく、女性も政治に携われるという。
なにより最初に聞いて驚いたのは、ハレノ様はお母様と二人暮らしというところ。
いくら平民とはいえ、女性が二人暮らしで生活ができているというのだ。
そういう行政支援が充実しており、平民も勉学を学ぶことがなんと義務!
しかも、六歳という幼い頃からなんと十五歳ぐらいまでが義務で学ぶことができるというではないか。
平民がそのお金を出せるほどの経済状況。
出せなくとも助成金が出る!
なんという素晴らしい世界なのだろう。
それはそれで悩みも多いというけれど、女性が仕事をすること自体好まれないこの国では想像もつかないことだ。
贅沢も、できるのはお金のある貴族や商人だけ。
贅沢をするのなら当然義務も果たさなければならない。
ヒメナ様は自覚がないのでこれから教えて差し上げなければならないのだけれど、ハレノ様がお帰りになってこの国に残られることを選ばれたら――ヒメナ様に“歌姫”以上の価値がないのよね。
なぜなら彼女の今の価値は、『聖女様の予備』であり『聖女様の友人』。
しかし、ヒメナ様に『聖女様の友人』の方はこの疎遠っぷりでほぼ機能していない。
さらに、今回ハレノ様がバミニオスを討伐したことで『聖女様の予備』の方もなくなった。
ヒメナ様自身で手に入れたのは“歌姫”の座のみ。
聖女様と関係がない“歌姫”の座に、無理矢理“王家の聖女”などというありもしない地位をつけたところで結局バミニオスが討たれた今、なおのこと“聖女”は使えまい。
エルキュール殿下がそれでも、歌姫の称号しか持たぬヒメナ様と婚約を続けるというのなら……貴賤問わず、殿下の王太子としてのお立場が悪くなることは――避けられない。



