「おはようございます、ハレノ様。まあ! 素敵ですわ!」
「あ、ありがとうございます。ロゼリア先生も、すごく綺麗です!」
「まあ、ありがとうございます」
数日後、今日は夏の恋人の祝祭。
この日を楽しんでから、わたくしたちは王都に帰る。
バミニオスを討伐し、女神ソアリア様の肉体であった水晶玉をフィアナに渡すために。
もちろんバミニオスを討伐したことや女神ソアリア様の肉体であった水晶玉のことは陛下に報告しなければならない。
先んじてユリッシュたちが報告書だけは送ってくださるというけれど、バミニオスが倒された話は寝耳に水だろう。
世界へもどのように報告するべきなのか。
まあ、その辺りは陛下が先に考えておいてくださることだろう。
そしてバミニオスが消滅して青い森がどう変化していくのか。
バミニオスの消滅が確認されたら、あの土地は我が国で管理することになるのか、それとも放置されるのか。
考えることはたくさんある。
本当に、あればバミニオスが消滅したのか……とか。
ハレノ様がおっしゃるには「寄生先があの水晶玉だった」らしいので、その水晶玉を浄化した今、バミニオスの魂はしがみつくこともできずに消滅している――らしい。
つまり安心してよい、ということ。
ならば、これから大忙しくなるだろう。
今日をたっぷりと楽しもう。
「まあ! 二人とも、とっても素敵よ! 本当によく似合っているわ!」
「ロメーヌ様、ありがとうございます」
「王都に帰ったら忙殺されそうなのでしょう? 今日はゆっくり楽しんでね。ハレノ様は――王都に戻ったら来月にも元の世界に帰ってしまうのでしょう? 寂しいわ」
「……はい」
お母様に言われても、ハレノ様の決意は揺るがない。
少しだけ、寂しい、という部分には賛同しておられるようだけれど。
そうよね、寂しいわよね。
わたくしも、今からとても寂しい。
「あと数日、わたくしともたくさんお話ししましょうね」
「はい! もちろんです」
「ロゼリアお嬢様、ハレノお嬢様、ユリッシュ・パシュラール様とブリジット・ジヴェ様が到着されました」
「わかりました。……では、ハレノ様。どうかごゆっくり」
「え? あ……」
わたくしの言葉にハッとしたように察したハレノ様。
まあ、玄関前のロータリーに出れば馬車の数は二台。
二人とも最初から“四人”で出かけるつもりはなかったのね。
馬車を下りてきたユリッシュが、真っ直ぐにハレノ様のもとに駆け寄る。
その姿はまるで犬。
わたくしに手を振って最低限の挨拶をすると、すぐにハレノ様をエスコートして馬車に乗り込む。
はいはい、一秒でも長くハレノ様と一緒にいたいのね。
行ってらっしゃいな。
「ロゼリア嬢」
「ごきげんよう、ブリジット様。わたくしたちも行きましょうか」
「ああ。……しかし、本当にいいのか?」
「ええ」
ブリジット様にお願いして、瞬間移動の魔法を使っていただく。
わたくしが向かったのは元バミニオスの亡国。
バミニオスの消滅はまず間違いないのだろうけれど、わたくしが見たかったのは建築物の方。
町並みは残念ながら風化してしまっている場所も多いのだけれど、おそらく貴族街のような場所であったところは多少内装が残っている。
「素晴らしいですわ。バミニオスの亡国と呼ばれるようになるまえ、この国はバミニオスの死後、支配から真っ先に独立して独自の文明を確立させたばかりだったと記録で見たことがありましたけれど……」
「ああ、ここを遺跡と例えるのなら、これほど美しく原型が多く残っている遺跡は珍しい。ん……? これは……紙、か?」
「まあ! もしかしてハレノ様が言っておられた植物紙ですか!? もうこの時代に植物紙の束が存在していたなんて……! というよりも、羊皮紙よりも破損しやすく長持ちしないと言われておりますのに、残っておりますのね?」
「保存状態がよかったのだろうな。ガラスの棚の中にある。読めるかどうか、わからんが」
「読んでみましょう!」
魔力で保護を行い、そっと本棚の中から取り出す。
表紙を開いてみると、見たこともない文字。
インクは現代でも使われているものとかなり近いよう。
「興味深いですわ。なにが書いてあるのでしょうか」
「日記のようだな」
「え……!? ブリジット様、読めるのですか!?」
「文字がかなり我が国のものとかけ離れて見えるが、隣国の文字には似ているり文法は我が国のものとほぼ同じ。だからおそらく……この屋敷の夫人の日記ではないか、と。どうやら、聖女と女神の生まれ変わりが発見されたと書いてあるようだ。次のページは……国王が聖女と女神の生まれ変わりを、国防のために瘴兵に捧げる意向を示していると夫に相談された、と書いてある」
軽率ですわね。
国の重要な話だと思うのだけれど。
日記に書き記しておくなんて……いいのかしら?
それとも、この屋敷の奥様はそれほど高位な方だった?
文字が書けて、ガラスの本棚をお持ちなのだから地位があったのはまず間違いない。
いや、逆に考えると植物紙の日記帳だからこそ、重要な事柄だとは捉えていなかったのかもしれなわね。
「聖女様や女神の生まれ変わりを、かなり軽く見ていたような口ぶりで書かれておりますのね」
「ああ、当時は女神の生まれ変わりや聖女は『瘴兵を呼び寄せる厄介なモノ』と思われていたらしい」
「まあ……なんという不敬な……」



