「硬い!」
ユリッシュが剣を突き立てる。
身体強化に加え、魔力付与も施された魔剣が刃先も通らない。
普通の物理攻撃ではないはずなのに、ユリッシュの件が無効化されている!?
『クハハハハハ! 魔力が豊富なだけの人間風情が我に敵うわけがあるか!』
「ちッ!」
「下がれ! ユリッシュ!」
円形の風の刃を作り出したブリジット様が複数投げる。
それぞれの軌道を描きながら、バミニオスを襲う。
バミニオスはその刃を手で次々砕いていく。
腐っても武力で大陸を統一した元武王ということか。
しかし、結局は女神に手を伸ばし悪王と呼ばれるようになった愚者!
魔法の風の刃も効かないのであれば――!
「火炎よ! 舞広がり、悪王を焼き払え!」
わたくしの炎の魔法!
蝶の形の無数の炎でバミニオスを囲む。
炎の蝶で啄み、やつを構成する瘴気を少しずつ削れば!
『小賢しい!!』
「そう簡単にすべてをやらせませんわ!」
バミニオスからすさまじい魔力の波動が響き、炎の蝶を吹き飛ばすがその程度消されてもすぐに増やせる。
わたくしの戦い方を見てユリッシュとブリジット様も同じく炎の蝶を出して啄み始めた。
有効な手段はいくらでも試さなければ。
『鬱陶しい!』
「くっ!」
先ほどと同じ……いえ、それ以上の衝撃波。
わたくしたちの生み出した蝶が一瞬ですべて吹き飛ばされた。
障兵と同じ瘴気の体でありながら、なぜこうも膨大な魔力を持っているのか。
これも自分たちの国だけは救われたいと、自国の聖女と女神の生まれ変わりを差し出した国の影響なのかしら?
「私の、聖女の力を宿します! みんなに聖女の浄化の力を付与! あいつを、削り切って!」
『聖女風情が! その程度の浄化の力で我を浄化できると思うなよ!』
わたくしの魔力に、ハレノ様の浄化の力が付与されている……!?
このようなこともできるというの?
「面白い! 聖女がこのような浄化の力の使い方をした記録はない! お前はこれほど柔軟に浄化の力を使いこなれるのだな。いいだろう! 我が魔法、全力でバミニオスを破壊し尽くす! 雷剣!」
『ぎいいいいいいい!?』
聖女様の持つ浄化の力。
それを他者に与えられるなんて、わたくしも記録で読んだことはない。
なぜなら聖女様にとって浄化は彼女自身を守る力。
でも、ハレノ様は躊躇なく自分の持つ浄化の力をわたくしたちに与えるなんて……それほどにわたくしたちを信頼してくださるなんて……。
わたくしも。
わたくしも、ハレノ様の信頼に応えたい!
ブリジット様の強大な雷の剣がバミニオスを貫く。
それも、何度も何度も。
次々発生する雷の剣にスタンして、衝撃波を出すことができない。
「ユリッシュ! わたくしの魔力すべてで魔法耐性を付与します! 突っ込んでくださいませ!」
「了解!」
わたくしの魔力、すべてでユリッシュに魔法耐性を!!
状態が変化し、魔法無効がユリッシュに付与できた。
ユリッシュは自身の魔力とハレノ様に与えられた浄化の力もすべて剣に付与。
普通の鉄剣であったはずの剣が、魔力と浄化の力で凄まじい輝きを放ち始めた。
「今だ! ユリッシュ!」
「うおおおお!」
一瞬、バミニオスの眼前の雷の剣が消える。
他の雷の剣が残っているから、周囲は蒼白い雷の光で放電状態。
わたくしの魔法耐性付与が変化して、魔法無効状態のユリッシュでなければダメージは確実。
だからこそ、ユリッシュが光の浄化の剣で突っ込む。
最初はまったく通らなかったユリッシュの剣。
でも、今の光の浄化の剣ならば……!
『ふざけるな! こんな弱々しい浄化の力しか持たぬ聖女如きに、我が敗北することなどあり得ぬ! あり得ぬーーー!』
「滅びろ! バミニオス!!」
ユリッシュがバミニオスの胸に、光の浄化の剣を突き立てる。
聞いたことのないような断末魔。
主魔児が三人もいて、聖女の浄化の力も宿した状態ならば負けることなどない。
お前の敗因は、何百年もお前を直接倒そうという者が現れず、人間との戦い方を忘れていたことだ。
バミニオス、お前はもう、終わり!
『馬鹿なぁぁぁぁあああああああああああああ!!』
ユリッシュの剣がバミニオスの胸を貫く。
瞬間、胸から黒い霧が噴き出す。
ユリッシュに返り血のように噴きかかるが、ハレノ様の浄化の力がユリッシュの体を包み込んでいるからか噴きかかった瞬間に浄化される。
無駄なあがきだ。
わたくしたちの――!
「勝ちだ」
ユリッシュが剣を振り、血を落とす仕草。
倒れたバミニオスの体はどんどん薄くなっていく。
そして、胸の中からユリッシュが黒水晶を持ち上げた。
その瞬間、バミニオスの体が完全に消滅する。
「ハレノ嬢」
「はい」
ユリッシュがハレノ様へ、黒水晶を手渡す。
受け取ったハレノ様が黒水晶を抱き締めるように浄化すると、漆黒に染まった水晶が光を纏った透明な――真の姿に変化した。
「これを……フィアナに渡してください」
「これを? 渡せばいいの?」
「はい。触れた瞬間、私の中にあった聖女の力が吸収されていきました。フィアナが持てば、女神様の本当の力を使えるようになります」
「実質女神様、ということか?」
「そんな感じです」
顔を見合わせる。
それは……なかなかにとんでもないことを言っているのでは?



