最後の場所の浄化が終わったあと、そのままわたくしたちはオルバグの町に戻った。
戻ったらお母様が騎士団に依頼されていた以外の付与依頼を集めて、微笑んでいる。
ハレノ様は困惑しながらわたくしの方を見上げ、お母様と見比べた。
そうね。
もう言わずもがな。
「お帰りなさい、ロゼリア。さっそくだけれど、お願いがあるのよー」
「もういいです。なにも言わずともわかりました」
「ロ、ロゼリア先生」
「ハレノ様はお部屋に戻ってゆっくりお休みくださいませ。わたくしは付与を行います。この程度一時間程度で終わりますわ。お母様の用意した新作の茶葉でアフタヌーンティーといたしましょう」
「だ、大丈夫ですか?」
「大丈夫ですわよ。村では魔法の一つも使っておりませんし」
実際、往復で二時間、滞在時間約三十分。
現在の時刻はお昼の十一時。
この程度の衣類の付与、一時間もあれば終わるでしょう。
お昼ご飯はご一緒できないのは残念だけれど。
「さすがロゼリア、話が早いわね。よろしくー!」
「はあ……」
さすがはお母様だわ。
わたくしの上手な使い方をよくよくご存じ。
離れて暮らしていたはずなのに、どうしてこんなにわたくしのことがわかるのかしら?
それから数時間後。
昼食も終わり、約束していたお茶会のためにハレノ様が二階から下りてくる。
私服に着替えたハレノ様の、黒い髪に映える赤い花柄のワンピース。
まあ、可愛らしい。
このようなワンピース、ハレノ様はお持ちだったかしら?
「どう? ロゼリア! オルバグの町にもいい仕立て屋があるでしょう?」
「あ、あの、あの……ロメーヌ様……」
「ロゼリアがデザインを始めたと手紙に書いてあったから、わたくしも真似して初めてみたのー。どう? どう? やっぱり少し古臭いかしら?」
「いいえ。確かにはっきりとした色合いは濃く、柄もぼかしがないのは一見古いですが花の位置や数は最新……むしろ、わたくしでは思いつかないような配置。なるほど、花の輪郭を花の色と同じ刺繍を施しているのですね。一見派手なのに気品と爽やかな感じに見えるのは、金糸で裾を小さな蔦で囲って出している。素晴らしい技術だわ。よい刺繡師ですわね」
「ええ。聖女ロゼ様は平民出身。聖女になられる前は刺繍師だったそうよ。だから、この町では腕のいい刺繍師が多いのよ。多分王都よりも多いのではないかしら」
その話は昔、わたくしがお母様から聞いた話。
この町――というか、この国を守る要であるオルバグの町が青い森に呑み込まれることなく存在しているのは、聖女ロゼ様の祈りの守りが存在するから。
そして、聖女ロゼ様はこの町の出身で、聖女になる前は刺繍師として領主一族の女性たちに認められるほどドレスの刺繍を行っていた。
王子との婚約を断り、この地の領主――つまり、わたくしのご先祖様と結ばれてこの地に住み続けたという。
もちろん、他の地域に招聘が現れた時はその都度遠征に向かった、と。
聖女様の中では珍しく、老衰で亡くなったとか。
そういう……聖女ロゼ様の残したものがこうして受け継がれ続けている。
なんなら、お母様のように受け継がれているものがこうして新しいデザインに使用するなんて……。
「素敵ですわ。ぜひこのワンピースを縫い上げた針子や刺繍師を王都に招きたいくらい」
「それなら既製品を何着か持って行くといいわ。オーダーなら暇だからすぐにとりかかってくれると思うし」
「暇、なのですか? これほど素晴らしい作品を作れますのに?」
「田舎だもの。わたくしもパーティーに呼ばれないし」
「呼ばれませんの?」
「侯爵家から出ているし、魔力もないから繋がりを作れると思われていないのよ」
それだけが理由かしら?
しかし、一応お母様はラクルテル侯爵家の第一夫人なのだけれど。
田舎の貴族にとっては王都の高位貴族との繋がりなんてそれほど必要ではない、のかしら?
「ロゼリア様」
「ああ、そうでしたわね。ハレノ様、こちら、先程届きましたの。お茶会のあと、お部屋で試着してみてくださいませ」
「これは……?」
メイドに差し出された木箱を受け取り、そのままハレノ様へと手渡す。
わたくしが付与作業最中に届いたそれは、まあ、見なくとも中身がわかるものだ。
「ユリッシュからなので、火耐性付与済みの祭り衣装だと思いますわ」
「あ」
「わたくしの分も一緒に届いていますから、あとで試着したものを見せ合いしませんか?」
「は、はい」
「では、こちらの衣装、部屋に持っていってくださる?」
「かしこまりました」
手渡してくれたメイドに箱をお願いして、わたくしたちは庭へ出る。
すでにお茶会の準備が揃っていた。
「そうそう。ハレノ様がおっしゃっていた梅酒やかりん酒とやら、漬けてみたわ! 見て見て! これであっているかしら?」
「は、はい! この果物が底に落ちたら飲めるようになった合図、らしいです」
「そうなのね……! 早く飲んでみたいわ〜」
なかなかの大きさの瓶を取り出し、頬擦りするお母様。
ハレノ様としては「でもかりんって秋に収穫できるもののはずなんだけどなぁ」と不思議そう。
まあ、まったく同じものとは限らない。
見た目が同じでも、やはりわたくしの世界とハレノ様の世界ではなにかが違うのかもしれないわね。
「収穫の時期なんて考えたこともなかったわ。わたくしの温室は常に植物が最後の状態で維持できるようにしているもの」
「なるほど?」
魔力がなくとも魔石があれば難しいことではない。
お母様、さすがに魔力がなくなっても優秀ね。



