『今度召喚されてくる聖女と結婚する』と婚約破棄した婚約者が泣きついてきたんだが殴っていいだろうか?


 ハレノ様が色々話をしてくださって、ハレノ様自身がもう少し考えてみる、と言っていたから答えそのものは出ないのだけれど……。
 ヒメナ様はどうしたらいいのかしらね?
 わたくしとしては、徹底的になんとかしてしまいたいのだけれど。
 うーん、ハレノ様がヒメナ様を見捨ててくだされば、こちらとしても徹底的にできるのだけれど。
 聖女様の適性が高いだけあって、慈悲深くてお優しいのよね。
 それでこそ、なのだけれど。

「おはようございます、ロゼリア先生」
「おはようございます、ハレノ様。よく眠れましたか?」
「は、はい。お茶のおかげで、お布団に入ったあとお腹がポカポカして……気がついたら……」
「それはよかったですわ」

 食堂に向かうと、すでにお母様がいた。
 本日の予定を話すと、お母様は論文のまとめをするそう。
 わたくしとハレノ様は、お母様の青い森調査に行ってくださったという騎士様たちに面会。
 もしも瘴気が宿っていたら、ハレノ様が浄化する。
 ついでに、騎士団に空間の割れ目があるのではないか、という場所を確認してきて、いつその場所の浄化に行くのかを話す。
 瘴兵はあまり現れないらしいが、ハレノ様は「あまり近くではないですが、空間の割れ目の気配を感じるので……」と気になさるのだもの。
 すごいわね、ハレノ様。
 あまり近くはなくとも、気配を感じるなんて。

「そうだわ。ハレノ様とロゼリアは恋人の祝祭はどうするの? この町で祝祭を過ごすのでしょう? それなら衣装を用意するわよ?」
「ああ、そうですわね」
「え? い、衣装?」
「恋人の祝祭は年に一度の夏の祝祭ですの。夜空に貴族が大きな火魔法で火花を放つのです。それを眺めるのに、火耐性の衣装を着るのですわ。平民たちにも行き渡るよう、この時期の貴族たちは生地に火耐性を付与するのに、大忙しなのですが……」
「わたくし魔力ないもの♪」

 思わず半目になる。
 お、お母様……。

「わたくしの代わりに付与を手伝ってあげてもいいのよ、ロゼリア」
「そうですわね。……ブリジット様たちにも声をかけてみますわ」
「まあ、素敵ね!」

 わたくしがお母様の魔力を、生涯奪ってしまった。
 その罪悪感を抱えて生きてきた。
 わたくしの価値観も、お母様から魔力を奪ってしまったというところから形成したのに。
 そのお母様は、魔力のない自分を満喫しておられるみたい。
 安心した半面、わたくしが気にし過ぎだったのか、とがっくりしてしまう。

「お嬢様、お出かけになるのでしたらお弁当をお持ちくださいませ。使用人をつけますのでお連れくださいませ」
「ありがとう。そうさせてもらうわね」

 さすがに女二人で街を歩くのは不安だもの。
 わたくしもこのオルバグ町には初めて来たから、地理に明るくない。
 使用人は護衛の他に、案内役も兼ねている。
 外へ出かける格好に着替え、応接間でハレノ様と合流すると男女の使用人が二人、バスケットを持って立っていた。
 馬車に乗ってお母様が棲む領主街から貴族街に下り、そこから郊外に向けて続く街道を進めば騎士舎が見えてくる。
 オルバグの町に派遣されている王宮騎士団、という名目だが、八割はこの町の平民の少年から青年で構成されているそうだ。
 残りの一割が近隣の下級貴族、王都から派遣されてきた貴族などの、魔力を持つ騎士。
 いわゆる上層部――隊長格だ。
 高い壁に囲まれた騎士舎に馬車で入り、しばらく走ると広大な訓練場が見えてきた。
 それを通り過ぎて、本部のある宿舎へ。
 馬車の御者を務めてくれた男の使用人がすぐに降り、受付に向かう。

「ユリッシュ・パシュラール様とブリジット・ジヴェ様、そして奥様が青い森の調査に協力してくださった騎士様たちへの面会を申し込んでまいりました。応接間でしばらくお待ちくださいとのことです」
「ありがとう。では、少し待ちましょうか」
「はい」

 青い森の調査に協力してくださった騎士様たち……体調になんの問題もないといいのだけれど……。
 しばらく待っていると、ドアがノックされる。
 入ってきたのはユリッシュ。

「ハレノ嬢!」
「ユリッシュさん……!」
「ごきげんよう、ブリジット様。それと……」
「ああ、青い森への調査に行ってくれた騎士たちだ。昨日の晩餐で話していたから、探しておいた」
「さすがブリジット様ですわ。ありがとうございます。さあさあ、ユリッシュ。ハレノ様を独占するのはその辺でおやめなさいな。祝祭でゆっくりすればよいのです」
「も、もうっ、ロゼリア先生っ」

 あら、怒られてしまったわ。
 からかったつもりはないのだけれど。
 でも可愛いわね。ふふふ。

「騎士の皆様、わたくしのお母様の調査に協力いただきありがとうございました」
「いえいえ。ロメーヌ様にはいつもお世話になっておりますので」
「その上、聖女様に体調を見ていただけるなんて……光栄です!」
「ハレノ様、よろしいですか?」
「はい! 任せてください」

 ハレノ様が騎士たちの腕に触れて、浄化の光を注いでいく。
 結局彼らの中には瘴気が侵入した形跡はなかったようだが、聖女様の手で浄化されたとなれば安心感が違う。
 騎士たちは口々にハレノ様へ感謝を告げる。
 ハレノ様はこうして、各地に支持者を増やしている自覚がない。
 そこがまた可愛らしいのだけれど。