「で、では二人とも聖女、ということなのか! な、なんだ……。い、いや、だが……」
「エルキュール殿下、こちらは事情がさっぱり呑み込めません。いったいなんのご用でいらしたの?」
「そ、そうだった。ロゼリア、助けてほしいのだ」
「なにをでしょう?」
そりゃあ貴族だもの、王族にお願いされたら助けるわ。
幼馴染の感覚が強すぎて、婚約中も恋人らしい空気はまったくなかったけれど、幼馴染だからこそエルキュール殿下に『助けて』と言われたら助けたくもなる。
だから早く用件を言え。
「召喚されてきた聖女がブタ女だった! あんなのと結婚したくない! あんなデブス女と結婚するくらいならロゼリアと結婚したい! ぶふぉおおお!?」
「ロ、ロゼリアーーーーー!?」
胸倉を掴んでとりあえずぶん殴る。
我ながら流れるような右ストレートが出たと思う。
真っ青になる父と継母。
目と閉じて見なかったことにしてくださる護衛のおじ様騎士のお三方。
まあ、護衛騎士もお三方はわたくしの殿下への扱いには慣れていらっしゃるから。
「な、な、なにをしているの!? 殿下を殴るなんて……!」
「ああ、ご安心ください。これは殿下との約束なのです」
「や、約束……?」
父と継母は知らなかったので、不敬罪、死罪、と怯えているのだろう。
だが、これはエルキュール殿下との約束。
「エルキュール殿下が王子らしからぬ自我を出したら殴ってでも抑え込む。ユリッシュでは痛いから、女のわたくしの非力な力で、という約束。今回はそれを実行したにすぎません。それでは殿下、次はお説教ですよ」
「た、頼む」
「「頼む!?」」
腰に手を当てて、次は王子としてあるまじき発言へのお説教。
本来なら護衛騎士とわたくしと殿下視界内空間でやるのだが、婚約破棄した今、護衛騎士の方がいるだけではいささか不安だ。
父と継母もいるので短めで終わらせる。
エルキュール殿下は、昔から自分に加害性質や我が強すぎるところがあると自覚していた。
いや、わたくしが指摘して、お説教をするうちに自分から悪いところを直し、人に認められる王太子になろうとしていたのだ。
隣にユリッシュという妹想いすぎな点を除けば完璧と言っても過言ではない幼馴染がいたのだから仕方ない。
ユリッシュに見劣りしないように、と努力する姿勢は、実に立派な王太子と言える。
「自分から過ちを反省に来る姿勢に免じて本日のお説教はこのくらいにいたしましょう。それよりも問題は聖女様が二人、召喚されてきたというところです。聖女様ともう一人の方は、今どのような状態なのですか?」
「あ、ああ……」
異世界から召喚されてきたのは『キョウガセハレノ』様と『ウミイエヒメナ』様。
エルキュール殿下が文句を言っているのは『キョウガセハレノ』様という方。
お太目な体系と肌荒れ、オドオドとしており口数も少ないためコミュニケーションが取れないそうだ。
反対に『ウミイエヒメナ』様という方は明るく華奢で可愛らしい。
事情を話すとすぐに嬉しそうにはしゃいで色々質問をしてくれたらしい。
誰もが『ウミイエヒメナ』様を聖女だと思ったが、唯一冷静に『ウミイエヒメナ』様を聖女と断じたのが筆頭王宮魔法師、ブリジット・ジヴェ様。
召喚した本人がそういうのだからまず間違いない。
つまり、正式な聖女と結婚しなければならないエルキュール殿下は、『キョウガセハレノ』様と結婚する、ということになった、と。
「ばかばかしい」
「そんなことを言わないでくれ! わ、私にも選ぶ権利があるだろう!?」
「選んだ結果がキョウガセハレノ様なのでしょう? 今さら馬鹿なことをおっしゃらないで。腹を括りなさい!」
「君以外と結婚するなら、ウミイエヒメナの方がいい!」
「まだおっしゃるの? いいからもう帰りなさい! 二人の聖女様には失礼のないように対応しなさいね」
「ま、待て! そ、それなら聖女の世話を手伝ってほしい! 頼める女性は君しかいないんだ! 頼む、ロゼリア!」
王妃様に、と言いかけるが王妃殿下も公務でお忙しいのはよく知っている。
開けた口を閉じて、頭を抱えた。
そもそも召喚されるのは聖女――女性が来るとわかっているのだから世話役の手配なんてしておくのが当然だろう。
なんでしていないの!
わたくしと婚約破棄したのだから、そういうことを配慮する人間がいなかった、なんていうんじゃあないでしょうね?
王妃様もお忙しいからってエルキュール殿下に丸投げなさった……?
ま、まあね……? 成人した王太子がまさか『実はできない子だった』なんて考えたくないものね……!?
わたくしがいなくても、やればできる子だとわたくしも思いたいです!
「はあ……。わかりました。城で保護されているのですよね?」
「あ、ああ。しかし、ヒメナは城に住めると喜んでいた。だから頼みたいのは……ハレノの方だ。彼女は城が落ち着かないらしく、もっと狭い部屋がいいと言っていて……」
「そうですか」
どうやら聖女様と予備として召喚された少女は性格や好みが相当違うようだ。
本人に聞き取り調査をした方がよさそうね。
頬に手を当てて溜息を一つ。
「わかりました。明日、城で聖女様方にお会いしてどのような生活をお望みなのかを聞き取りします。女官と侍女を十人ずつ用意しといてください。練度や階級、家柄は問いません。どのような人柄の者が聖女様の琴線に触れるかわかりません。ひとまずは、聖女様が安心して新しい生活を送れるよう配慮できるようにいたしましょう。その権限を、わたくしにくださいませ」
「もちろんだ」
溜息を吐く。
ではそのように、と言ってお帰りいただいた。



