ハレノ様の言う通り、女神の生まれ変わりを執拗に狙い続けて瘴兵が現れる。
女神のままであろうと、人間に生まれていたとしても結局は狙われ続けているのが現状。
「あの……私の世界でそれは――ストーカーっていうんです。ストーカーはストーカーの自覚がないらしいですね。あと、相手が迷惑しているって思っていない。だから、話し合いで解決することもあるそうですけれど」
「ストーカー? それは、もしかしてバミニオスのことですか?」
「はい。聞いているとまんまストーカーですよね。はっきり振ったことあるのでしょうか?」
全員ぽかんとなってしまう。
文献に残るバミニオスはそんな話をして相手の心情を理解できる性格ではない。
すべて自分が中心。
どの文献にも同じことが書いてある。
女神の生まれ変わりは時折、女神の記憶を夢に見ることがあるそうだが、それによると女神ははっきりとバミニオスを、何度も否定しているとあった。
だから交際のお断りはしているはず。
「ハレノ様、文献によれば女神は幾度もバミニオスを拒絶しています。バミニオスは自分主義といいますか……横暴で人の話など聞かない人物。ほしいものは武力で強奪し、特に女性に関してはどんな手を使ってでも手に入れ、反抗した女性は惨い姿になるまで拷問して殺害したといいます。話の通じる相手ではないのです」
「そ……そうなんですね。じゃあ、話してもダメ、なのか。一番ヤバいタイプのストーカーなんですね」
「ストーカーには種類があるのですか?」
「話せば理解してやめる場合もあるらしいですが、勝手に憎しみを滾らせて相手の周囲にも危害を加えようとするタイプもいるって学校で注意されました。自分の気持ちを相手が受け入れてくれないのは、周りが邪魔するせいだって思い込んで相手とその家族や友人にも攻撃を加えるっていう思考になるんだそうです」
「な、なんて身勝手な……!」
「だが、文献から読み取れるバミニオスの人格は本当にそんな感じだな。そうか、そういう思考なのか」
身勝手もそこまでいくと害悪がすぎる。
いえ、バミニオスは生前――人間であった頃、独裁の王であったとされていた。
その当時から三つの大陸を荒らし周り、武力で制圧を繰り返し、世界のすべてを自分の物であると宣言して……ついには創世の女神であるソアリアをも手に入れようとしたのだ。
人間の身でありながら、神に。
あまりにも無謀で不敬。
ハレノ様がいう“ストーカー”という存在の生態、確かに特徴は一致している、かも?
どちらにしても、バミニオスは他者の話など聞き入れない。
ハレノ様の言う『ちゃんと交際を断る』は無意味な提案だ。
とっくの昔に女神はそれをしているのだから。
では、話をその一つ前のものに戻す。
聖女の力を、女神の生まれ変わりに移すことはできるのか? という問い。
「どうなのでしょう? ブリジット様。聖女の力をフィアナに移すことはできるのですか?」
「わからない。だが、聖女の“死”以外で力が移動した話は聞かないからな。迂闊なことは言わない方がいいだろう。聖女に傾倒した信仰を持つ者の中でも、そんな話を聞けば『聖女様が死にたがっている』と勘違いして襲いかかりかねん」
「えっ」
「そ、そんな者がいるのですか!?」
「この大陸にいるかどうかはわからないが、女神と聖女を信仰しているジュゴマ信仰国というところでは、有益な知識以外に歴代聖女と女神の生まれ変わりの、ありとあらゆる個人情報も保管されていた。ストーカーだったか? あれが国家規模になった感じだと思えば、お前にも変態性がわかるだろうか?」
「むりむりむりむりむりむりむりむり」
ハレノ様が全力で首を横に振る。
わたくしも久しぶりに背中が冷たい感覚になったわ。
他の大陸にはそんな恐ろしい国があるのね……。
「それは絶対にやりすぎだと思うけれど……聖女の力がフィアナに映ったら、フィアナはどうなってしまうのだろう……。人間では――なくなってしまうのかな」
「あ……そ、そうですよね……。確かに、フィアナちゃんがどうなってしまうのか、考えてなかったです。ごめんなさい」
「いや。いいんだ。今まで持っていなかった力を突然与えられたら、ハレノ嬢にとっては疑問に思うことなのだと思うしね。ブリジット殿、よかったら少し考えてみてくれないかな? 聖女の力を移動する術があれば、便利であることは間違いないわけだし」
「まあ、確かに……。しかし、簡単なことではないだろう。時の権力者たちが、奪い合うことにもなりかねない」
「あ……」
そうね。
聖女の力の移動が可能になれば、戦争の引き金にもなりかねない。
今回のように異世界から適性のある方を呼び出す方が、まだマシと思えてしまう。
敵が瘴兵だけではなくなる。
争い合うのが、人間になりかねない。
聖女の力を目にしたあとだから余計にそう思うわ。
あれほどの力、得られるのなら相手を殺してでも奪おうとする“国”が現れても不思議ではない、
「ごめんなさい……本当に、あの……迂闊なことを、言いました」
「お気になさらないで、ハレノ様。疑問に思ったことを口になさるのは悪いことではございませんわ。どんどん質問してくださいませ。わたくしがお答えできる内容でしたら、なんでもお教えいたしますから!」
「あ。……ふふ、はい」



