部屋に戻り、ハレノ様に領主との打ち合わせに参加するかどうかを聞いてみる。
主に領内のどの村や町が狙われていて、どのようにして行くのか、などを聞くのだ。
「そ、それって私がいた方がいい、ですか?」
「お嫌でしたら無理にとは申しませんわ。長旅でお疲れだと思いますもの」
「じゃ、じゃあ、休んでいても、いいですか……? す、すみません……」
「お気になさらないで。疲れている時に知らないおじ様と話をするのは、さらに疲れてしまいますものね」
「は、はい……」
というわけでハレノ様はお部屋でしっかり休んでいただくことに。
そして知らない場所で一人にはされたくないということなので、わたくしの代わりにユリッシュを部屋に置いていこうか、と廊下で待たせていた二人に話すと変な顔をされた。
「男と未婚女性を部屋に二人きりにさせようとしないでよ。ロゼリアもちょっと疲れてるんじゃない? 会議位は騎士団と魔法師団の代表で僕らが出るから、ロゼリアとハレノ嬢は休んでいてよ。食事は部屋に運ばせるから」
「あ――。そ、そうね。ごめんなさい。そうさせていただくわ」
ユリッシュに指摘されて自分も存外疲れているということ。
自分でも疲れに気づかないなんて。
しっかりと休ませていただこう。
ゆっくり休ませてもらった翌日。
早朝に部屋に来たのはユリッシュとジヴェ様。
朝食を食べながら昨日二人が領主から聞いた話を聞くところによると、去年狙われて引っ越した先のマゴ村が狙われているらしい。
障兵の規模は二百人。
時空の割れ目は村の北に確認されており、まずは底を叩こう、ということになったらしい。
時空の割れ目さえ潰せば障兵は出てくることもないからだ。
ハレノ様としても動いて攻撃してくる瘴兵よりも、動かずそこにあるだけの割れ目に触れるだけならば恐ろしくないだろう。
「それにしても、割れ目の場所がわかっているのは助かりますわね。いつ頃出発しますの?」
「予定としては明日。あまり休む時間もなくて申し訳ないけれど。どうかな? 行けそうかな? ハレノ嬢」
「は、はい。大丈夫です……」
「不安に思うことはないよ。僕が一緒にいるのだから。任せて。絶対に君のことは守るからね」
「ッ……あ、ありがとうございます……ユリッシュさん」
あらあ。
さすがのハレノ様もユリッシュにここまで言われると頬を染めてしまうみたい。
しかし、ユリッシュなら間違いなくハレノ様を守り抜くことだろう。
「時に、聖女ハレノ、お前に一つ報告しておきたいことがある」
「は、はい?」
急に神妙な面持ちになったジヴェ様。
ハレノ様もその面持ちに、赤みがかっていた顔色が青ざめる。
「お前と一緒に召喚されてきた女……ヒメナ・ウミイエ。実は、お前たちが出立した翌日が女神の日であり、王都中央の王城前広場でその月の歌姫が歌を披露するのだが……」
「ああ、そういえばそうでしたわね。ごらんになりましたの?」
「ああ。なんというか……異世界の歌と踊り? を披露していた。それが平民に大いにウケてな……螺雨月の歌姫も彼女に決まったそうだ」
「まあ……」
「はあ!? 選定会も行わずに!?」
ユリッシュが前のめりになる。
無理もない。
ユリッシュが叫ばなかったらわたくしが叫んでいたかもしれない。
来月の歌姫の座まで得た?
じゃあ、アリスは……?
いえ、アリスだけではなく、他の歌姫候補たちもそれに納得すると思っているのだろうか?
「平民には未だかつてないほどに好評だったらしい。平民たちにも簡単にフレーズを真似させたり、手を一緒に振るように指示をしたりと一体感を与えて一気に大人気になったようだ。城の兵士たちに直接『また彼女に歌姫として歌ってほしい』という声が殺到しており、王侯貴族も無視ができないほど声が上がっているらしい。それだけでも厄介だというのに、王太子がヒメナ・ウミイエを“聖女”として公表してしまった。次の日には『障兵討伐遠征』を掲げ、大々的なパレードを大通りで行って王都を出立した――フリをして、こっそりと城に帰還していた」
「え? ちょ、ちょっと待ってほしいんだけれど……どういうこと? 僕らは先行部隊だから早朝にひっそり出発したのに、来もしないヒメナ嬢がパレードで見送られたってこと? はあ? なんで?」
「パフォーマンスだそうだ。今代の聖女はヒメナ・ウミイエで、彼女は平民に寄り添い王太子、騎士団とともに障兵討伐遠征に向かう――と。しかし実際に討伐を行うのは……」
ジヴェ様の目線はハレノ様。
怒りで唇が震える。
他者から無理矢理歌姫の座を奪っておきながら、さらにハレノ様の地位まで奪おうというの?
エルキュール殿下も、そんなことを許容するどころか……隣で助長させている?
信じられない。
わたくしとユリッシュがあれだけ反対したのに、実行したのね。
しかし、王家でも無視できないほどに平民から支持を集めるなんて。
実際に見ていないからわからないけれど、そんなに民衆の心を掴める歌姫だったのなら、歌姫としての才能はあったのだろう。
それなら別の使い道もあっただろうに。
ハレノ様だけを危険な地に送り込み、自分たちは安全な場所でただ賞賛を得ている。
それを聞いて黙っていられるほどわたくしはいい子ではない。



