あれから二日。
今日は今月の歌姫決定の日。
決めるのは学園長と、学園に出資している貴族。
そして一番重要なのが、生徒たちの評価。
本番を想定した発表会が行われ、生徒たちが私情を込みで投票を行う。
だからそわそわと帰りを待ってしまう。
なんとハレノ様まで。
「アリスちゃん、どうなんでしょうか」
「彼女なら大丈夫だよ。ロゼリアの指導を受けているのだから、本当に上手いからね。それよりもう一度さっきのところを練習してみようか」
「は、はい……」
顔を真っ赤にして俯くハレノ様。
本日のダンスの相手はユリッシュ。
この国一番の色男魔法騎士の急接近で、ハレノ様は始終顔が赤い。
その姿を見ると、ハレノ様も女の子なのね~、と和やかな気持ちになる。
「それにしても、ハレノ嬢はすぐに動きを覚えるね。今はまだ体がついていっていないように見えるけれど。ほら、もう次の動きの準備に移っている。素晴らしいよ」
「そうでしょう? それに最近肌の調子もよくなりましたのよ」
「やっぱり運動すると変わるんだろうね。きっとすぐ痩せて、アリュードルネ被服店の服を着られるようになるだろう。その時はぜひ、うちのフィアナも仲間に入れてほしいな!」
「は、はい!」
アリュードルネ被服店の服をお揃いで買うためにダイエットを始めたハレノ様。
最近肌艶の調子がよく、かつ、お腹周りが少し減ってきている。
ユリッシュ的にはその“お揃い”にフィアナも入れてほしいという。
多分、体が弱く、女神の生まれ変わりとして友人を選ばなければならないフィアナを案じての提案。
フィアナが関わるならアリュードルネ被服店で買う服の料金はユリッシュが出してくれるだろうから、わたくしとしては推奨。
フィアナにしかお金を使わない男なのだから、たっぷりいいものを買えばいいのだ。
というか、それなら安い生地のものでなくパーティー用の本当にいいものを揃えて買ってくれないだろうか。
「失礼いたします。ロゼリアお嬢様、本宅の方で奥様がお呼びです」
「わかりました。ハレノ様、ユリッシュ、少々外しますわ。できるだけすぐに戻りますわね」
「――大丈夫かい? 必要なら僕が挨拶に行くから言っておくれ」
「結構よ。そんなことにはならないわ」
ほほほ、と笑って見せるとユリッシュが肩を竦める。
あなたはハレノ様のダンスの練習に集中して、という意味なのに『怖い怖い』と言わんばかりの態度。失礼ね。
しかし、継母からの呼び出しか。
ユリッシュが来ているのに挨拶に来させない、とか、まだハレノ様を挨拶に来させようとしているのか。
はあ、と溜息が出てしまう。
お父様には期待していなかったけれど、本当に役に立たないわね。
堤防になるつもりがまったくないのだろう。
貴族なら多少わかるはずなのに。
「ごきげんよう、お継母様。本日はなんのご用ですか? わたくし来客中ですのよ」
「黙りなさい! この役立たず!」
本宅の応接間に入るなり、継母に大声で怒鳴られる。
部屋の中を見回すが、青ざめたメイドが三人と使用人が三人。
執事のアールドが俯いて申し訳なさそうにしている。
あらまあ……主人不在時に来客対応中のわたくしを呼び出すのを、止められなかった――という感じかしら。
まあ、仕方ない。
お父様がこのヒステリックをまったく諫めないから、どんどん悪化する。
つまり悪いのはお父様。
あなたたちのせいではないわ。
頬に手を当てて、溜息を吐く。
これはわざと。
「わたくし、呼び出された理由を窺っておりますの。なんのご用件かお聞きしてもよろしくて? お継母様」
「ッぎ……!! ……旦那様が困っていらっしゃるのよ! 辺境の村がいくつも障兵に襲われているのに、いったい聖女はなにをしているのかって! 私までお茶会や夜会で言われるのよ!? 聖女の保護者はお前だろう!? いったいいつまで聖女を遊ばせているの!? なんのために召喚された聖女なのよ! いつまで経っても挨拶にも来ないし、これじゃあ聖女を囲っている意味がないじゃない!!」
「辺境の、村が――」
頬から手が離れる。
……そうね。そうよね。
ハレノ様が来られる前から王都外の辺境の村々が襲われている話は聞いていた。
ユリッシュも遠征に行っている。
困っている人、暮らしを害されている人がたくさんいる。
ジヴェ様からの返事は『元の世界に聖女たちを帰す方法は、国王の命令で研究自体ができない』という絶望的なもの。
直接お会いして秘密裏にも研究できないかお願いするしかないかも、と考えていたところだが……確かになにもしないまま、元の世界に帰るという“報酬”だけ与えるのは……ハレノ様自身のためにならない。
この国の人間――平民も王侯貴族も、それは許さないだろう。
そんな行為はきっと恨みを買う。
すでに怒りを買っているようだもの。
ハレノ様自身を守るためにも、聖女としての役割を果たさなければ……危険だ。
「聖女様は遊んでいるわけではありませんわ。異世界からいらして心身が不安定になっておいででしたから、慣れていただいていましたの。平民から貴族の世界にいらしたお継母様なら、慣れるのに時間が必要なのはおわかりいただけるのではありません?」
「ッ……!! うるさいわね! それとこれとは話が違うの! 国に関わっていることなのよ! わかっているの!?」
「そうですわね。こればかりはお継母様のおっしゃていることにも一理あると思っておりますわ」
全面的には認めない。
だってわたくしはハレノ様の味方だもの。
この国の貴族の中でハレノ様――と、一応ヒメナ様の絶対的な味方が、一人でもいなければ可哀想。



