『今度召喚されてくる聖女と結婚する』と婚約破棄した婚約者が泣きついてきたんだが殴っていいだろうか?


 執事がすぐにペーパーナイフで開封し、中の手紙を手渡してくる。
 手紙は公爵夫人から。
 聖女様に挨拶をしたいこと、フィアナの授業の再開時期について。
 あ、あちゃ~~~~。

「あ、あの、なにか呼び出しとかなら……私のことは気にしないでください」
「ああ、違いますわ。交流がある公爵様夫妻がハレノ様にご挨拶をしたいとのことですの。ハレノ様が人見知りのようですから、少し様子を見てお話しようと思っておりました。わたくしもお世話になっている方々ですから、もしハレノ様が了承してくださるのなら同席いたしますわよ」
「あ、挨拶……」
「ええ。――今代の女神の生まれ変わりは、公爵家のフィアナ様という九歳の女の子なのですの。もしハレノ様さえよければ、フィアナ様にも会ってみませんか?」
「えっと……女神の生まれ変わり、って……」
「はい。聖女様と対なす存在、ですわ」

 この世界に来た時に、女神の生まれ変わりと聖女の関係性の説明は受けているはず。
 それを思い出したのか、ハレノ様は俯いてしまう。
 まだ無理そうだろうか?

「会いたくないのでしたら、無理にとは申しませんわ。フィアナにはわたくしから時間を置くようにお願いします。ですが、フィアナもわたくしの生徒なのです。今読み書きもだいぶできるようになって、数字の勉強をしておおりますのよ。歴史についてもよく自分から学んでいて、わたくしが教えるよりも前に知っていたりしますの。真面目で無垢で、優しく、周りのことばかり気にする。体が弱いから、いつも謝ってきますのよ。ハレノ様に少し似ている子ですわ」
「私に……?」

 いつも申し訳なさそうにしている。
 体が弱いから、人に迷惑をかけると思っているのだろう。
 それだけでなく、女神の生まれ変わり。
 聖女がいなければ障兵を招くが、聖女がいれば聖女に戦ってもらわねばならない。
 それが余計に罪悪感を抱く。
 こちらがどんなに『気にしなくてもいい』と言っても、気になってしまうくらいには優しい子。

「わたくしとしては会っていただきたいですわ。すぐに答えを出さなくともよろしいですので、考えるだけ考えてはくださいませんか?」
「――わかりました。会います」
「え?」

 顔を上げてきっぱりと言い放ったハレノ様。
 わたくしが聞き返してしまうほどの即決。

「本当によろしいのですか?」
「は、はい。私、本当なら、帰りたいです。今すぐにでも……。でも、それは無理なんですよね?」
「そうですわね。難しいと思います。一応、ジヴェ様に質問のお手紙をお出ししましたけれど……」

 召喚も一ヶ月の準備を要したらしいので、送還もそのくらいの期間の準備が必要だろう。
 そもそも召喚された聖女様が元の世界に帰ったという記録はあるのだろうか?
 調べるにしても、国の図書館などでないと資料がないかもしれない。
 というか、わたくしが調べる時間ってあるかしら?

「すぐに帰れないなら、少しでも他人に迷惑をかけないようにしたいです。だから、自立した生活ができるようになりたいです。あの、私に似ているってことは、似た考え方の子、なんですよね?」
「はい。ものすごく似た考え方の子ですね」

 ハレノ様の考え方を聞くと本当によく似ている。
 といっても、公爵令嬢として生まれ育っているフィアナにとって自活という概念があるかどうかは悩ましいけれど。
 他者の力を貸したくない、という願いが強いのは似ている。
 まさかこんなにあっさり会うと言ってくださるなんて……うちの両親にもまだお会いしていないのに。

「ちなみに、うちの両親にはお会いしますか? ちょっと複雑な家庭ではあるのですが」
「あ……アリスちゃんに聞きました。あの……ロゼリア先生の本当のお母さんが家から出て行ってて、アリスちゃんたちのお母さんが元平民のくせに侯爵家の女主人みたいな顔しているって」
「ま、まあ……言葉を選ばずに言えばまあ……そうなのですけれども……」

 ア、アリス……自分の母親のことなのになんというあっけらかんと……。

「やっぱり身分の差とか、色々あるんですか?」
「ないわけではございませんね。如実に違うのは教育の差と魔力の有無でしょうか」
「平民に、魔力はないのですか?」
「ないわけではないのですが、平民の中には生まれつき魔力を持たない者が非常に多く生まれるのです。そうですね、この機会に魔力についても少しご説明しましょうか」

 ガゼボへと案内して、そこにお茶を持ってきてもらう。
 ガーデンティータイムというやつだ。
 椅子に座ったハレノ様に、魔力について話をする。

「魔力とは基本的に女性に宿るものですの。男性で魔力をって生まれるのは貴族だけであり、両親ともに魔力を持っていなければ魔力を持つ男子は生まれてこないと言われております」
「それも、女神様や聖女の影響、ですか?」
「そう言われております。ただ、貴族男性の中には母親の魔力をそのまま受け継いで、強力かつ膨大な魔力を持って生まれてくる主魔児(アルグ)という特別な体質の者も現れます。ジヴェ様はおそらく主魔児(アルグ)でしょう。そういう者は、必ず聖女、または女神の生まれ変わりの近くに生まれ、聖女と女神の生まれ変わりを守る役目を持っています。フィアナにはユリッシュという兄がいるのですが、ユリッシュもまた主魔児(アルグ)です。この国では唯一の魔法騎士として、瘴兵討伐のため国中を駆け回っているのですよ」