「まあ、最終的な決定はお父様にお任せいたしますわ。わたくしは家のためになるのならどなたでも構いません」
「ん、んんん……し、しかし、その……誰か気になる相手などは、いないのか? その、恋は間違うこともあるが……いいものだぞ」
「まあ。それはエルローラ様のことをおっしゃていますか?」
目を背け、半笑いになりながら「まあ……」と言葉を濁す。
そうね、お父様の二番目の結婚は間違えたと言わざるおえないのかもしれないわね。
ユシスとアリスに出会えたことはわたくしにとって間違いではないけれど、ラクルテル侯爵家の評価が落ちたのはエルローラ様の影響が大きいのはわたくしも擁護のしようがない。
「そうですわね。お父様が回りの影響も鑑みることもなく選んで迎えた女性ですものね。ですが、わたくしはお父様とエルローラ様のことを見て結婚に期待ができなくなりましたのよ? 愛や恋で周りに迷惑をかけて、家を衰退させることになるのでしたら、わたくし結婚自体しなくてもいいと思ってしまいますわ。ですから、条件のいい跡取りをわたくしの婿として選んでくださいませ。そのくらいの判断力は残っておいででしょう? ――ラクルテル侯爵?」
「あ……ああ……そ、そうか。そこまで…………」
手を組み、俯いてもごもごとするお父様。
まさかお父様、わたくしがそこまで失望していると思っていらっしゃらなかったのかしら?
ここまでしておいて?
楽観的ね、相変わらず。
「さて、話はもう終わりということでよろしいかしら? ハレノ様を待たせておりますから、わたくし戻りますわね。お父様たちがハレノ様にご挨拶をしたいという時は事前に連絡をくださいませ。くれぐれもエルローラ様には猫の皮を深めに被っておいでくださるよう、お父様から言い含めてくださいませね」
「う……あ、ああ。わ、わかったよ」
実に無駄な時間だわ。
わたくしの希望は前々から伝えていたのに、なにを話しあうことがあるのやら。
紅茶もちょうどなくなったし、いいタイミングだわ。
「あーーーー、でも、ロゼリア」
「なんでしょう?」
「す、好きな人ができたら、教えておくれ。と、父さんは、ロゼリアが好きな人と幸せになるのが、一番だと思っているから、ね」
「ほほほほ。お戯れを」
笑い飛ばしてから立ち上がって応接間から出る。
生家に帰ってきても談話室でも食堂でもなく応接室に通されるわたくしの気持ちを、お父様はなにも感じないのでしょう。
別にいいわ。もうとっくに慣れてしまった。
お父様にとっては親に決められた相手との娘よりも、自分で選んだ女性の言うことの方が大事なのでしょう?
溜息が出そう。
本当に……恋も結婚も馬鹿みたい。
「お嬢様、旦那様はロゼリアお嬢様のことをちゃんと愛しておられますよ」
「そういう慰めは不要よ、アールド。お父様のわたくしを愛する気持ちと、エルローラ様を愛する気持ちは別物なの。その比重も。だからもう、いいのよ」
ただ貴族として、家のことを最優先にしてくれればいい。
家のことを最優先に――変に人間らしい愛情を見せて期待させて、何度も何度も裏切って……いっそ潔く、わたくしも政治の道具にされた方がましだった。
お父様はわたくしよりも、エルローラ様よりも、自分が一番可愛い人。
自分が一番大事だから、わたくしに我慢を強いてエルローラ様を甘やかす。
エルローラ様はお父様を頼ってくれるから、気持ちがいいのだろう。
情けのない人。
みっともない人。
もうお父様にはなんの期待もしていないわ。
きっとお母様はとっくにそれに気づいてオルバグの別邸に引っ越したのね。
それなら、わたくしも連れて行ってくださったらよかったのに。
「お待たせいたしました。進捗はいかがですか?」
「だ、大丈夫です。こ、このくらい書けました」
「どれどれ……まあ、素敵! ずいぶん綺麗に書けておりますわ」
「ほ、本当? う、嬉しい。も、もっと上手く書いて、読めるようになるまで頑張ります」
「ええ。これならきっとすぐですわ。ですが、ずっとこもって書き続けてお疲れでしょう? お庭を散歩しませんか? 今はライカの花が見頃ですわ」
「ライカの花……? この世界の花、でしょうか? 見てみたい、です」
「では参りましょう」
侯爵家の庭もそれなりに広い。
別邸から本宅に向かう道は大きな中庭になっており、噴水を中心に四方に大きな花壇がある。
それぞれの花壇の奥にガゼボ、ベンチ、空の畑、倉庫があって空の畑には庭師が薬草を育てていた。
これはわたくしのお母様が種を送ってくださったから、育てている。
お母様が今住んでいるオルバグという土地は王都から南西部にあり、我が国からは大陸北部のバミニオスの亡国に一番近い町。
幸い、辺境伯のおかげでバミニオスの亡国から直接現れる障兵は阻まれているが、空間の隙間から瘴気を送り込むバミニオスの障兵にはあまり意味はない。
ただ、バミニオスの亡国が近いせいか瘴気に少しだけ抵抗の効果を持つ植物が多いらしく、お母様はその研究をしているという。
侯爵夫人として、本宅を離れているからと……。
「わあ、オレンジ色の、大きな花ですね」
「はい。夏の訪れを知らせてくれる華と言われています。大きく力強い、素敵な花ですわよね」
「はい」
「ああ、ロゼリアお嬢様! こちらにいましたか!」
「どうしたの?」
駆けてきたのは別邸の執事。
手紙を差し出され「パシュラール公爵家からです」と言われて少し気が遠くなりかけた。
「すぐ確認するわ」
「はい」



