『今度召喚されてくる聖女と結婚する』と婚約破棄した婚約者が泣きついてきたんだが殴っていいだろうか?


 自然な流れでユシスとアリスに会わせる約束が取りつけられそう。
 そうよね、よくよく考えるとハレノ様たちは十代後半の少女。
 貴族学園に通っていただくというのも、一つの手だったかもしれないわね。
 問題は読み書き。
 読み書きができるようになったら、学園を提案してみようかしら。
 では、早急にお二人に覚えていただくのは文字の読み書きね。

「文字の読み書きの勉強なら、わたくしの教え子と一緒に教えましょうか? 九歳の子で、公爵家のご令嬢なのです」

 その子が女神の生まれ変わりではあるのだけれど。
 今その話をしていいものか。
 反応を見て、かしら。

「わ、私も……そ、そうですね……えっと……は、はい。一緒に……教われたら、と、思います」
「嬉しいですわ〜! では、明日以降一緒にお勉強できるよう公爵家にお話ししてみますわ」
「あ、ありがとう、ございます」

 こうしてハレノ様の初日は無事に終わり、夕飯時は朝よりも打ち解けた話し方だった。
 きっと明日はもっとよくなっているだろう。
 寝る前にハレノ様に使っていただく教材を選んでいると、アラーラが手紙を持って部屋を訪れた。

「ロゼリア様、本宅からお手紙です」
「ありがとう。そうだ、ちょうどよかったわ。これを朝一番に出しておいてくれるかしら?」
「かしこまりました」

 手紙を受け取り、代わりにジヴェ様宛の手紙を預ける。
 封蝋もしていないから、正式な呼び出しではなさそう。
 夜遅くになったから本宅まで呼び出せず、明日の朝早くに来い、という内容かしら?
 と、思ったら明日の昼、継母が留守にするので二人で会って話がしたい、と書いてある。
 手紙の主は父。
 継母の前ではゆっくりまともな話ができない、ということね。

「はあ……」
「お呼び出しですか?」
「ええ、昼食を本宅で、ということみたい。困ったわ。お昼ご飯はハレノ様と食べようと思っていたのに……」
「軽食を準備いたしますか?」
「うーん……そうね。一応準備してくれるかしら。――食べ物と言えば……ハレノ様の食欲はどうかしら? わたくし、失礼ながら食べるのがお好きなのだと思っていたのだけれど二回食卓をご一緒しても、それほ旺盛に見えなかったのよね」
「わたくしもそう思いました。むしろ、昼食はほぼ食べておられなかったようですし」
「まあ……」

 やはり異世界に連れてこられたストレスかしら?
 もしくは、この世界の食べ物がハレノ様のお口に合わない……とか?

「おやつはどうだったのかしら?」
「甘いものはお好きなようですが、それもあまりお召し上がりではありませんでした」
「そう……。やはりこの世界の食べ物や味つけがお好みではないのかもしれないわね……」
「シェフに試行錯誤してもらうよう、伝えておきます」
「よろしくね。わたくしもハレノ様の世界の料理について、それとなく聞いてみるわ」

 ストレスからくる食欲減退であるのなら、少しずつ改善されていくとは思うのだけれど……。
 もしも食事が口に合わないのだったら、それはこちらがハレノ様に合うよう試行錯誤していくしかない。
 早く健康にお腹いっぱい食べていただけるようになればいいのだけれど……。



 その翌日の朝食は比較的シンプルにパンと牛乳ジャム。
 アドバドのスープとレッスサラダ。
 観察していると、少し嬉しそうにサラダを食べている。
 あれ?

「ハレノ様はお野菜がお好きなのですか?」
「え? あ、い、いえ……そ、そういうわけではないのですが……その……」

 言葉を待つ。
 なにか言いづらいことなのだろうか?

「レタス、に、似てる野菜が、出てきて……なんか……嬉しくて」
「レタス?」
「この葉っぱの、野菜……わ、私の世界に、似てる野菜が、あって」
「そうなのですね。他にはどんな食材があるのですか?」
「えっと……」

 よし、うまい具合に料理や食材について聞き出せそう。
 ハレノ様にとって、異世界――この世界の料理はやはり元の世界の料理が恋しいのだろうから。
 しかし、そこまで食べ物に差があるのだろうか?
 逆に興味が湧いてきたわね。

「――という感じで、えっと、この世界の料理は……その……結構、薄味で……そ、素材の味がそのままというか……」
「味が薄かったのですね」
「は、はい……正直、あんまり美味しくなくて……。い、いえ、素材の味が活かされてるという意味では、美味しいので……! えっと、なんか、その……全部温野菜みたいというか……お、お肉は美味しいんですけど……でも、なんか全部塩味っていうか……」
「そうですわね。言い訳に聞こえるかもしれないのですが、我が国は大陸内部に位置して海からも離れているのです。北側には『バミニオスの亡国』という瘴気の森が広がっていて、塩や胡椒などの調味料は輸入に頼っているのですわ。貴族であっても調味料を多く得るのは難しいので……薄味はお許しいただきたいのですが」
「いえ! あの、ま、まずいとかじゃなくて……食べられないとかじゃ、ないので!」

 口に合わない、ということか。
 しかし、調味料の問題は――わたくしにはいささか難しい。
 本宅の方で購入し、それなりに古いものがこちらに回ってくるのだ。
 ハレノ様の口に合わないのなら、本宅の方から多めにもらってくるか……あるいは市場で追加購入してもらうか。
 予算は、わたくしのポケットマネーから出して王家に請求すればいいかしら?