月が青く染まる夜に

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停電前夜は、妙に静かだった。
フロアの半分以上が帰ったあと、蛍光灯の白さだけが残っている。

私は最終工程表の赤字修正を確認しながら、何度も同じ箇所を読み返していた。

片桐さんに言われた言葉。

『工程、詰めすぎです。切替、絶縁試験、ケーブル更新確認、全部を同じ時間帯に集中させている』

ざっと目を通す。
三時半集合。
四時 主遮断器開放。
四時十分 非常用発電機起動。
五時 系統切替。
七時 絶縁耐力試験。

…たしかに詰まっている。余白が、ほとんどない。
しかし、どうやって私がこの工程表を変更させることができるのだろうか。
現場の人間じゃあるまいし、口出しするのも…。


悩むなかで、背後で椅子が動く音がした。

「あれ、紗菜さん、まだ帰ってなかったんですか」

振り向くと、迅和くんが立っていた。

彼もまた、明日のために色々な準備に駆け回り、残業していたのだろう。
作業着のままで、受変電室の最終確認を終えた顔をしていた。

どう話せばいいのかまだ見つからないままで、話を進めてみる。

「明日の工程、もう一回見てたの」

私は続ける言葉をどうしよう、と迷いまじりに紙を揃えながら言う。

「ちょっと、詰めすぎじゃないかなぁって」

だめだ、言い方が硬くなってしまう。
本当はもっと違う言葉を選びたいのに。

でも、迅和くんは表情を変えなかった。

「効率を選びました。まあ、余裕はないですけど」

一瞬、視線が絡んだ。

「僕が大丈夫だと踏んで組んだので」

短い返事。
それ以上踏み込めないような答え方だった。