月が青く染まる夜に

『停電の日、設備より人を見ていてください。お願いしますね』

返事をする前に、一方的に通話が切れる。
受話器を置いたあと、ふっとフロアの音が一気に戻った。


迅和くんは何も知らない顔で資料をまとめているのだろうな。
私は座ったまま、しばらく手を止めた。

「設備より、人」
────その言葉が、胸にずしりと残る。


数字は正確でも、効率は良くても、人の限界だけは、機械では測れない。
停電当日まで、あと二週間。
工程は整っている。資料も完璧。

でも、私の中のバランスだけが、わずかに傾き始めている。

光が消えて、空調が止まって、いつもの流れが一度リセットされる日。

設備か、人か。
私は、どちらを見守るんだろう。

胸の奥で小さく波立つ心臓の音を、私はかき消すように深呼吸した。

「……ちゃんとしなくちゃ」

そう、自分に言い聞かせる。
そして、停電当日、何が起きても受け止められるように────。

心の中で小さく決意を固めた。