月が青く染まる夜に

仕事の確認はあっという間に終わる。

貸した受話器が戻ってくると、片桐さんの声が再び私に届いた。

『佐藤さん、待機費は半日に修正します。こちらの読みが過剰でした』

「ありがとうございます、お手数をおかけします」

それで終わるはずだった。

でも、電話の向こうから小さく息を吸うのが聞こえ、彼女は少しだけ声を低くするのが分かった。

『それと、停電当日ですが』

前置きのように、言葉を続ける。

『迅和、かなり無理すると思います』

────無理をする?
一瞬、呼吸が止まる。

チラリと隣を見たけれど、もう迅和くんはそこにはいなくて。
どうやら頼みごとを終えたということで、自分のデスクに戻っていったようだ。

「……無理、ですか?」

『工程、詰めすぎです。切替、絶縁試験、ケーブル更新確認、全部を同じ時間帯に集中させている』

言われて、慌てて工程表を見直す。
確かに効率はいい。でも余裕はない。

『本人は言わないと思いますけど』

小さな笑いが混ざる。
小さく紙をめくる音が向こうで鳴った。

『佐藤さん、止められる立場ですよね』

含んだような言葉に、私は受話器をぎゅっと握った。

「止められないですよ。私は総務なので…」

『だからですよ』

はっきり、でも柔らかく。
強くは言ってこない。その分、重いなにかが胸にのしかかる。

『迅和は現場目線で組みます。だけど、あなたは全体を見ているでしょう』

買いかぶりすぎなのでは、と感じてしまって、沈黙で返してしまった。