月が青く染まる夜に


と、提案したもののすぐに
『いえ、そちらに行きます』という返答。


数分後、迅和くんが私のデスク横に立っていた。

彼は身をかがめて私のパソコンを覗き込む。
あっという間に近い距離になったものの、お互い視線はパソコン画面である。

「ここ」

彼の指先が、止まる。

「仮設電源車の待機費用、二日分計上されてるんです」

今度は工程表を開き、私は見積書と見比べながら目で追う。

「えーっと、停電作業は四時間の想定だよね?発電機切替も同日中に復旧予定のはず」

「そうなんです。予備日含めてるのかもしれないですけど」

そこでふと、明細の備考欄に気づいて読み上げる。

「予備日は別途って書いてあるよ。この二日分は確かにちょっと多いかも」

「片桐が余裕見てるんだと思います」

その名前が出ると、胸の奥がほんの少し重くなる。
仕事の話。合理的な判断。でも、引っかかる。

心のどこかで、小さな波が立つ。

「再計算してもらおうか?」

波を気取られないように、普通の声色で尋ねる。
“普通”ってなんだっけ。

「すみませんが、紗菜さんから連絡してもらいたいです。総務経由のほうが正式に残るので」


手間になるのは分かってるからこその頼みであることは百も承知だ。でも、それをこなすのが私の仕事。

「すぐかけてみるね」と、電話をとった。