月が青く染まる夜に

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停電会議から三日が過ぎた。
フロアはいつも通り、規則正しい音で満ちている。

キーボードの連打、コピー機の低い唸り、誰かの笑い声。
それなのに、私の中だけが少し静かじゃない。

理由はわかっている。
年次停電の準備が佳境に入っているからだ。

各部署への正式通知文、停電工程表の最終版、受変電設備更新の稟議書。
数字と文面と期限に囲まれている。

…それだけじゃない。

午後、各部署へ送る通知メールの最終確認をしていると、内線が鳴った。ほぼ無意識に受話器をとる。

「はい、総務部インフラ整備課、佐藤です」

『紗菜さん、少し時間ありますか』

迅和くんの声だった。
名乗りもしないのが、彼らしい。
仕事に集中して力を入れていた肩が、ほっと緩む。

さっきから忙しなく稼働しているコピー機を超えたら彼がいるだろうに、わざわざ内線をよこすあたり、なにか急ぎのものなのだろう。


「大丈夫だよ。なにかあった?」

『受電盤更新の見積り、桜華テックから届いてます。金額の内訳、一緒に確認してもらえますか』

…見積書。
すぐに操作していたパソコンの画面を切り替えて確認する。
更新対象は、老朽化した高圧ケーブル一部と遮断器の交換。

そこに停電作業人件費、仮設電源車の待機費用、絶縁耐力試験費が並ぶ。
これは、ちゃんと話し合った方がいいのでは?

「会議室とか使った方がいい?」