月が青く染まる夜に

廊下に出たところでまだ二人はいて、タブレットを覗き込んでなにか確認をしているようだった。

「じゃあ、駐車場で機材を確認しておくよ」

「お願いね。これに不備があるとアウトなの」

「分かった。また何か思い出したら言って」

私と話す時とは違う、片桐さんとの間に流れる信頼感。安心感。安定感。
他人行儀じゃない、本当の迅和くんの話し方。


話の区切りがついたのか、迅和くんが先に歩いていってしまった。
なにか急ぎの用事でも思い出したみたいに、ちょっと足早に。


片桐さんは彼が角を曲がって見えなくなったあと、私の方へ身体を向けた。

「佐藤さん」

柔らかい声。
芯があるけど、優しいんだろうなと分かる声だ。
深く考えずに返事をする。

「はい」

「あのね。停電の日って、不思議となにか起きるんですよ」

「なにか…ですか?」

どういうことだろう?首をかしげた。

「そう。設備か、人か」

一瞬だけ微笑む。その彼女の微笑みは、妙に絵になるほど綺麗だった。

「止まると、見えちゃうんです。普段は動いてるから、気づかないものが」

片桐さんの履いているピンヒールがコツン、と鳴った。

「しっかり準備、しておいてくださいね」

「────分かりました…」

なにかに圧倒されるように、押し出されるような返答しかできなかった。