月が青く染まる夜に

────私、この人に耳をかじられたんだった。
そう考えると、ものすごく恥ずかしいような、どこか気まずいような。

しかしそんな私とは真逆で、彼はいつものペースを乱さない。


仕事の話をしている。それだけ。
胸の奥が少しだけ騒ぐ。

…なかったことになんて、しないよね。


私は資料作成に没頭した。

三年前から徐々に下がる絶縁抵抗値。
規定値は下回っていないけれど、更新のタイミングとしては妥当。

発電機の負荷試験では、最大稼働時間は九十分。
重要系統のみなら余裕はある。
数字は冷静。グラフは正直。感情の入る余地なんてない。


会議が始まる十三時。場所は小会議室で開かれた。

長机を挟んで、私と迅和くん。
そして────桜華テックの片桐彩さん。

設備保全課の課長とビル管理会社の担当者も席に着いていた。
それでも、実際に工程を詰めていくのは、結局この三人だった。

片桐さんは常駐ではないけれど、今回のような場合には会議にももちろん参加する。
高圧設備の保守契約に基づき、定期点検や改修時に来る外部業者の現場責任者などだ。


彼女の首から下げた入館証のストラップが、ゆらりと揺れていた。
外部の人間であるにも関わらず、堂々たる立ち振る舞い。