月が青く染まる夜に


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午前十時を少し過ぎた頃だった。

総務部インフラ整備課のフロアは、キーボードの打鍵音と電話の保留音が規則正しく重なっている。


年明け最初の大きな案件は、来月予定している年次停電。

旭陽電力本社ビルは高圧一括受電。
受変電設備の法定点検と、一部老朽化したケーブルの更新を同時に行う予定だ。

つまり、全館停電。

照明も空調もエレベーターも止まる。
非常用発電機は重要系統だけを生かす。

その段取りを組むのが、私の仕事。

過去データを引っ張り出し、負荷率を整理し、各部署へ通知文を作る。
地味で細かくて、でも絶対にずらせない作業。

神妙な顔にもなってしまう、頭を使わないとどうにも進まないものだ。


「紗菜さん」

低くて、落ち着いた声が上から降りてきた。
顔を上げると、迅和が立っていた。

作業着の袖にわずかに付いたグリスの跡。現場帰りらしい。

「今回の年次点検、受電盤更新の申請に使う資料、過去三年分の絶縁抵抗測定記録、出せますか?」

少し間を置いて続ける。

「あと、非常用発電機の負荷試験データ。停電中のバックアップ時間、数字で詰めたいんですけど」

具体的かつ、的確な依頼。
余計な言葉はない。これ以上ないほど分かりやすい。

私は椅子を回し、サーバーフォルダを開く。

「絶縁抵抗は受変電設備台帳にまとめてあるよ。三年分なら推移グラフも作れるけど、どうする?」

「それは助かります」

「発電機は月次点検報告書から抽出すればいいよね。最大負荷率と実稼働時間も入れた方がいい?」

「はい。お願いします。会議、十三時からなんですけど…間に合いますか?」

十三時と言われ、腕時計を確認した。あと三時間。

「大丈夫。間に合わせるよ」

うなずいて見せると、ふと目が合う。