月が青く染まる夜に

スクリーンが白くフラッシュし、その光に照らされて、彼の横顔が一瞬だけ見えた。
真剣な目。けれど口元は、ほんの少しだけ柔らかい。

その表情を見た瞬間、胸の奥がきゅっと締めつけられた。


映画の音が遠くなった。


エンドロールが流れ、館内がゆっくりと明るさを取り戻すころ、触れていた指先が同時に離れた。
何もなかったみたいに。
けれど、何もなかったわけではないことを、私はちゃんと知っている。

────たぶん、彼も。


映画の余韻が残り、まだ座ったまま。

「こういうの、苦手だったんじゃないですか」

いつも通りの調子で迅和くんがそんなことを言ってくる。
横を見ると、いつもの距離の迅和くんがいる。普通の顔。普通の空気。

なのに、さっきまでの暗闇がまだ胸の奥に残っていて、どうしても落ち着かない。

「ホラーよりはマシ」

それは本当。
ホラー映画だったら、たぶん本気で叫んで、なんなら抱きついていたかも。

外に出たらきっと風が強い。顔が熱いのは、そこで冷やせるだろうか。


人がまばらになったところでようやく立ち上がる。
ふわりとした足の感覚。


「復旧、大変そうですよね」

後ろでつぶやかれた言葉に、反射的に振り向く。

「映画の話?待って。そこ?」

「道路ボコボコ、信号機全損、電柱折損。あの規模だと高圧側も怪しいです」

さらっと言う。さらっと言うけど。
言ってることが、完全に仕事。

「映画だよ?」

「分かってます」