月が青く染まる夜に

今度は横風がさらに強く吹いた。


マフラーがふわりと舞い上がる。
同時に、白いコードも大きく揺れた。

「ちょっ────」

風の強さで一歩ずれた拍子に、イヤホンのコードが私のピアスとマフラーに引っかかる。
同時にぴん、と張った。

「痛っ」

「ごめん!」

ふたり同時に足を止める。

初めて聞いたかも。咄嗟に出た、彼の壁がない“ごめん”。


「僕が歩くの速すぎたかもしれません」

「ううん。私が…」

と、ここで言い詰まる。
距離が一気に縮まったからだ。物理的に。

彼が私の耳に手をかけて、絡まったコードをほどこうとしてくれている。
────耳、赤くなってないかな。


「痛いですか?」

「大丈夫。むしろごめん」

「ワイヤレスイヤホン、購入リストに入れます」

真顔で言うから、余計におかしい。

手こずってうまくほどけないらしく、迅和くんの顔がやけに近い。
思っていたよりずっと。

イヤホン越しに流れている曲のギターが、やけに鮮明に聞こえる。

触れるか触れないかくらいのもどかしさがくすぐったくて、思わず身をよじった。

「動かないでください」

低い声。条件反射で止まる。


ここでやっとほどけたらしく、彼の指から先のコードがするするとまっすぐになった。

キーホルダーの赤と青が、すぐ目の前で揺れている。
こんなに近い距離、無理。ドキドキしすぎて、心臓に悪い。

白いコードが、今度はおとなしくふたりの間に垂れていた。