月が青く染まる夜に

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定時を少しすぎた頃。

電力と交通整備の点検報告書のチェックを終え、顧客データの整理もだいたいできた。
とりあえず今日はここまででいいか、とパソコンの電源を切って閉じる。

周りの総務部のみんなもぼちぼち帰り始めた頃だ。

私も帰ろう、とイスにかけていたジャケットを羽織る。
ブラウンのトートバッグを肩にかけて、残っているみんなに「お先します」と挨拶して事務所を出た。


いつもの光景。いつものエレベーターへの道。
帰りには薄暗くなっている廊下。

煌々としている給湯室からは、残業している何人かの男女の笑い声。
みんな小休憩といったところか。

給湯室をサッと横切り、エレベーター前で到着を待つ。
腕時計を見て、電車の時間を計算する。
スマホでどの電車に乗れるかなあ、なんて調べながら到着したエレベーターに乗り込む。

誰もいないエレベーターで、“閉”ボタンを押そうとした時に向こうから足音が聞こえたので、急いで“開”ボタンを押し直した。


小走りで乗り込んできたのは、迅和くんだった。
あの、“信号機のキーホルダー”がなによりも先に目に飛び込む。
黒いリュックにぶら下がって揺れていた。
しゃら、と金属が擦れる音。

「すみません、ありがとうございます」

彼は事務的にそう言って、私の代わりにエレベーターの扉を閉めてくれた。


聞こうか、聞かないか、キーホルダーのこと。

彼が所属しているのはたしか、道路交通設備課。
設備・システムの保守・監視など、たまに現場に行って点検や修理も行っていたような…。

なにしろ彼の輪郭がしっかりとしたのは、今日である。
知らないことばかりだ。