月が青く染まる夜に

スーツでも作業着でもない。私服だ。
当たり前なのに、妙に新鮮だった。


「それが飛ばされない格好ですか?」

イヤホンを指にくるくる巻きながら言う。

「一応、重心低めにしたんだよ」

「ミシュラン期待したのに」

「だってそれは…」

言いかけて、ムキになればなるほど、仮面が剥がれてしまうことに気づく。

「それは、の続きは?」

首をかしげる仕草をしているが、彼はおそらく確信犯。
もうすでに負け試合をしているような。

────楽しみにしてたから。少しはお洒落したかった。


顔に書いて、あとは察してねという表情を押し出したものの、彼に伝わってはいないだろう。

迅和くんの視線が一瞬、足元を見て、それから顔に戻る。

「会社とはまた違う雰囲気ですね、紗菜さん」

彼の最大の特徴というか、欠点というか、話し方に温度がないのがつらい。

「どういう意味?」

「いい意味ですよ」

さらっと返されて、言葉に詰まる。