月が青く染まる夜に

彼女のネーミングセンスに仰天している笹原さんは焼き鳥を箸で綺麗にほぐして、口に放り込んだ。

「ガガ様だよ、猫の名前。すごいだろ。マジで中身も女王。仲良くなれる気がしないってぇ」

「笹原くん……頑張って……」

真奈美さんが笑いを堪えたようにそう言うと、

「その点、紗菜ちゃんの猫はハードル低そうね」

となにか含んだように横目で見てくる。


「名前、なんていうんですか?」

こんなにうるさい店内なのに、迅和くんの問いかけだけはなぜだかハッキリ聞こえた。
顔を上げると、まっすぐに私を見ている。

もう、逃げられない。

「────ちくわ」

私が愛猫の名前を口にすると、ふっと彼が笑った。


誰よりも先に真奈美さんと笹原さんが声を上げる。

「親しみやすさ百パーセント!」

「いいなぁー庶民的で!」

二人とも、絶対酔っ払ってるし、バカにしてる。
むくれている私に気づいて、真奈美さんが肩を組んで「ほらほら、ちくわの写真見せなさいよ」と急かす。

半分投げやりにスマホを渡した。
ロック画面がちくわなのだ。


日向でごろんと転がり、前足を伸ばしてあくびをしてきいる顔、無防備な姿。
白ベースの茶トラで短毛。子猫の頃はちくわみたいなビジュアルだったのだ。それで名付けた“ちくわ”。

「ね?かわいいでしょー!!」

真奈美さんが男性二人に見せるその姿は、もはや自分の猫かのような自慢げなものだった。
そんな風に言われるのも、悪くない。

ちょっと誇らしげに眺めてしまった。

「ガガ様とは全っっ然違う。なんかこう、普通でいい!」

ビールをぐいっと飲み干して、上げてるのか下げてるのか絶妙な感想を述べる笹原さんに対し、身を乗り出してちくわを確認した迅和くんは特になにも言うことなくスマホを真奈美さんに返していた。

そのままスマホは私の元へ戻ってくる。

「ここまで来るとガガ様のビジュアルが気になるわ…」

真奈美さんのつぶやきに、笹原さんも自分のスマホを取りだしてなにやら彼女にガガ様を見せようとしている。