月が青く染まる夜に

人伝いに自分が呼ばれたことを知った迅和くんが、一切事態を飲み込めていない表情でこちらへ歩いてくる。
しかも、座敷の通路が狭すぎてつまずいたりもしている。


────酔っ払いの真奈美さんに変なことを吹き込まれないか、それだけが心配!

「ちょっと席詰めましょうよ〜、窮屈すぎるって!」
鶴の一声みたいに、笹原さんの言葉でガタガタと席が動く。

気づけば私は下座へ移動。真奈美さんの策略という名の計らいで、迅和くんはお醤油を回せば届く距離になっていた。
でも触れない距離。

「メンツは揃ったね。さあ、紗菜ちゃん。もう一度さっきの話して?」

改めて真奈美さんにそう言われて、エッと思わず言葉に詰まる。

ここに来たばかりの迅和くんは、当然なんの話をしていたのかさえ理解していない。
むしろ、どうして自分が呼ばれたのかも分かっていないはずだ。

彼の隣に座る笹原さんが、迅和くんの肩にもたれかかる。

「聞いてくれよぉ。彼女の部屋に上がれないんだ。猫がまーじでシャーシャー敵視してきてさ。玄関からシャーシャーだぞ?つらいぞ?」

「はあ」

返事なのか同情とは言えない曖昧な返しで首をかしげる迅和くんに、真奈美さんが横槍を入れる。

「猫はペットじゃないのよ、家族なの。とっきー、分かる?」

「あの、僕、初めて呼ばれました、“とっきー”」

「そんなのどうでもいいでしょ?紗菜ちゃんだって猫飼ってるのよ?大丈夫なの?」

噛み合わない会話の末に、迅和くんの目が私に向く。
違う違う!と慌てて首を振るものの、笹原さんが身体を起こして目を丸くした。

「仲間なのか?とっきー、俺と同じなのか?懐いてもらえないのか?」

「“とっきー”…」

引っかかっているところが、別次元。