月が青く染まる夜に

やがて高玉課長が立ち上がり、ジョッキを掲げた。
あの顔は、絶対にもうすでに一杯飲んでそう。

「今年はトラブルも多かったが、みんなよくやってくれた!街の安全は我々のー…」

長くなりそうな前置きに、すかさず笹原さんが「課長、早く早くー!」と急かした。

周りでどっと笑い声。

「もー。仕方ないなあ!では────乾杯!」

課長も課長で、機嫌が悪くなることもなく、笑顔で合図。


カンパーイ!とそれぞれにジョッキがぶつかる。
ジョッキの音と、同時に泡が弾ける。

居酒屋のざわめきが一気に膨らんだ。

料理が運ばれ、誰かが笑い、誰かが席を立つ。
仕事で騒がしいのとは全然違う、楽しい空間だった。


あちこちで飛び交う、お酒の名前。
仕事の愚痴、雑談。取引先の内緒バナシ。
あの人たち、実は付き合ってるらしいよという身内話。
他愛のない、恋人の話や家族の話。

あちこちから、色々な話が聞こえてくる。


「紗菜ちゃんはー?最近どう?」

こういう時にこそ聞き出そうと頑張る真奈美さんの隣で、私はせっせとサラダや鍋料理などを取り分けていた。

トングを片手に、なるべく抑揚のない声で答える。

「特になにも。いつも通りです」

「ウソだぁ。なにかないと困るって!」

「真奈美さんは困らないですよね?」

「もう手は繋いだ?キスした?どっちから好きって言ったの?」

「えっ、なになに、紗菜さん好きな人でもいるの?」