••┈┈┈┈••
21時半を過ぎた頃、迅和くんが事務所に戻ってきた。
もう、事務所には私ひとり。
どうして残っていたのかは、たったひとつの理由。
彼を待っていた、なんて正直には言えない。
防寒ジャケットを脱いでヘルメットを机の横に置くと、ふと迅和くんが顔を上げた。
表情はほとんど変わらない。
「お疲れ様です。紗菜さん、まだ仕事が残ってるんですか?」
この、通常運転っぷりがまた彼らしい。
綻びそうになる口元を引き締めて、首を振った。
「ううん。いま終わったところ」
とっくに終わっていたなんて、言えない。
私の小さな嘘なんて、彼にはもちろん気づかれないだろう。
その証拠に、彼の視線はカウンターに置かれっぱなしになっていた生クリームのケーキに移り変っていた。
「あれ、今日…」
「クリスマスだよー。忘れてたの?」
もはや生クリームはとけて、ケーキとも呼べないビジュアルになったそれを、私はそっと箱に戻して片付ける。
こんなに傷んだケーキは、食べない方がいいに決まっている。



