月が青く染まる夜に

交差点の信号が、すべて消えた。

赤も、黄も、緑もない世界。


街が一瞬だけ、息を止めたみたいだった。
私の鼓動も、同じタイミングで止まった気がした。

────お願い。戻って。

指先に力が入り、デスクの縁で少し白くなる。
数秒。
たった数秒なのに、身体が固まるほど長かった。


そして……ぽつり、と赤が灯る。
次に黄色。
最後に、緑。


『復旧確認!』
無線が次々と重なる。

『歩行者、青に切り替わりました!』


画面の中で、人の流れが動き出す。
車列がゆっくりと進む。

警察官たちが手信号で慎重に流していた道路が、しっかりと規則的になる瞬間だった。

交差点が、再び“生きている街”に戻る。


私は大きなため息をついた。安堵のため息。
肺の奥まで冷たい空気が入って、やっと現実に戻る。

モニターの隅に、彼の姿を探す。

警官と短く言葉を交わし、ヘルメットを外す背中。
…ああ、よかった。

胸が少しだけ熱くなった。


「マジでよかったぁー。紗菜ちゃん、お疲れ様」

笹原さんが真奈美さんのデスクで、安心したように笑顔を見せた。
そして、パソコンの電源を落とすと

「ごめん!俺、これからデートなんだ!お先!」

と、爽やかに事務所を出ていった。


“デート”か。
ふふっと笑ってしまった。

イケメンと会社で持てはやされる彼の、恋人へ尽くす一面。


いつの間にか、モニターも消されていた。