月が青く染まる夜に


クリスマスイブの事務所は、いつもと少しだけ匂いが違っていた。


コピー用紙の乾いた匂いの上に、砂糖菓子みたいな甘さが薄く乗っている。

誰かが持ってきたショートケーキの箱が、受付カウンターの端で静かに開いたままになっていた。
白いクリームは少し崩れ、苺の赤は心なしかくすんで見える。

それでも、そこだけがやけにあたたかい色をしていた。
壁時計は19時を少し過ぎたところ。

残業しているのは、そんなに多くない。
時期的に、みんないそいそと帰っていく人の方が多数だった。


ついに隣に座っていた真奈美さんも、盛大な伸びをして立ち上がった。

「はぁー、つっかれたー!紗菜ちゃんはまだかかりそう?」

「はい。でもあと少しです」

「手伝おうか?」

「ありがとうございます。だけど、大丈夫です」

私は自分でも分かるほど疲れ気味な声で笑みを返した。
たしか真奈美さんは昨日も残業していたはずだ。
負けず劣らず、疲れだって溜まっているはず。

「キリいいところで終わらせなよ。イブだし?」

なにか言いたげな真奈美さんの視線をかわし、はーい、と気のない返事をした。


クリスマスだろうがなんだろうが、インフラは止めてはいけないのだ。