月が青く染まる夜に

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居酒屋の暖簾をくぐった瞬間、外気がひやりと頬を撫でた。


焼き鳥の煙と笑い声が背中にまとわりつくみたいについてくる。

「じゃ、私はこっちだから〜」

ほろ酔いの真奈美さんがふわふわとした足取りで私に手を振る。
家の方向が真逆なので、お店の前でお別れである。

「後輩の恋を!私は!全力で応援するから!」


半径50メートルくらいには筒抜けになっていそうな声で、私に怒鳴るように投げかけてくる。

「そんなことよりも、真奈美さん!ちゃんと家に帰ってくださいね!タクシー使ってもいいんですから!」

無防備な彼女の歩く後ろ姿が心配で大きめの声で話しかけると、こちらを振り向かずにヒラヒラと左手を舞うように振ってきた。


酔っ払うのはいつものことではあるが。
ヒートアップする先輩をたしなめるのも、なかなかの重労働である。
彼女の姿が見えなくなるまで見送った。



ひとり残された歩道は、信号がゆっくり赤から青へ切り替わるところ。
街の光が水たまりに溶けて、足元で小さく震えている。


駅のホームで電車を待ちながらスマホを開いた。

見慣れないアイコン。
先ほどの飲み会の真っ最中に来たメッセージの通知に、心臓が跳ねたのは事実。

この地域では見かけない、縦型の信号機をアイコンにしているところが彼らしい。

きっとこだわってその画像にしているであろう、まさかの迅和くんだった。

動揺してさっきはメッセージの中身を確認できなかったけれど、どんなメッセージを送ってきたんだろう?
普段、やり取りなんて一切したことがない。

連絡先の交換をした記憶もないが、きっとだいぶ前になにかの現場で一緒にでもなった時に、必要になって交換したのだろうが、履歴はなかった。


そのまっさらな画面に、短い言葉が並んでいた。

『右の袖に米粒がついていました』
『もう気づいてたらすみません』
『気になったので連絡しました』


「────米粒?」