月が青く染まる夜に

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駅裏の居酒屋は、木のテーブルが年季でつやつやしていて、壁には謎の格言カレンダー。

「人生は串のようにまっすぐあれ」と書いてある。
まっすぐどころか、私は今くの字だ。


定時で上がれたぶん、早めに入店できたのでまだ店内は混雑していない。

生ビールが運ばれてきた瞬間、真奈美さんはもうフライングスタートダッシュ。


「はい、乾杯より先に質問。迅和くんは“優しい男”か、“計算高い優男”か、どっち?」

ゲホッ、と何もまだ飲んでもいないのに咳が出た。

「まず飲ませてもらえませんか?乾杯は?」

「却下」

ジョッキがカチンとぶつかる前に、彼女は串を掲げて宣言した。

「焼き鳥で例えるならね」

「真奈美さん、乾杯しましょうよ」

「紗菜ちゃんは今、“ねぎま”なのよ」

この先輩は昔からこうだ。
人の話など聞かない。

「意味がわからないですよ!」

「表面は普通。でも中に肉汁が詰まってるタイプ」

無視して先にビールに口をつけた私の負けだった。
思いっきりむせた。ビールが鼻に入りそうになるほどに。

「汚い例えはやめてもらえません!?」

「で、迅和くんは“塩かタレか問題”」

グビっとここでようやく一口目を飲んだ真奈美さんの謎の分析に参る。

「もう…真奈美さんはいつも話が高度すぎる」

彼女は得意げに串を回しながら続ける。

「塩なら無自覚な優しさ。タレなら“置きコーヒー計画”があった男」