月が青く染まる夜に

その時、横から低い声。

「紗菜さんって、意外と原始的なんですね」

振り向くと、いつの間にか迅和くんが立っていた。
表情は変わらない。だが、たしかに彼は私を楽しげに見ているのが目で分かった。

「だって、ずっと赤なんだもん」

「コピー機に話しかける人、初めて見ました」

「違うの!これは〜交渉術というか」

「やめといた方がいいですよ。相性良くないです」


彼は一瞥したあと、コピー機のカバーを骨ばった手で開けて中を覗く。
いつもの紙詰まりではないことを確認し、私が踏ん張っても開けられなかったトレイをいとも簡単に引き出してみせた。

「力じゃないんですよ」

「…じゃあ、どうしたら?」

半分拗ねたように尋ねると、彼はこちらを見ないまま
「僕を呼んでくれたらいいです」
と、さらりと言うのだった。


何食わぬ顔で紙詰まりの残骸をきれいに取り除いた。
細かい紙の残留が奥深くに潜んでいたようだ。


最後に、やさしくコピー機の横を軽く叩き、
「ご機嫌直りましたか」
と小さく言う。

コピー機は、誇らしげに緑ランプを灯していた。

「ね?僕の言うことは聞いてくれるので」

なんだか勝ち誇ったように言われたので内心悔しかったが、通常運転になったベテランが私の送信したデータをしっかりと印刷し始めた動作を見て、文句を言うのを辞めざるを得なかった。