月が青く染まる夜に

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トレーを持ったまま、社員食堂をぐるりと見渡す。
湯気、食器のぶつかる音、誰かの笑い声。

カレーの匂いと焼き魚の匂いとめんつゆの匂いがけんかしているのに、なぜか落ち着く空間。

真奈美さんに一時間前に誘われた社食ランチは、断ったのだ。どうしてなのかというと、なにしろすっぴんだからだ。

たいてい十二時になるとみんな社食に行ったり、外にランチに出かけたりするので、あえて時間をずらして一時に来てみたものの、案外混んでいて気分が萎えてしまった。


とにかく、お腹は空いているから絶対にちゃんとお昼ご飯は食べたい。
せめて窓際なら、端っこだし人に見られることも少ないのではなかろうか。


特製スパイスカレーランチをトレーに乗せて、窓際の席で空いているところがないか探した。


────あ、あった。
窓際の席。空いてるところある!

ラッキー!とその席に滑り込むと、やっとひと息ついてマスクを外してお水を飲む。

が、何気なく先に座っていた斜め向かいの男性の顔を見てむせた。

「迅和くん!いたの!?」


私の声で彼は気がついたのか、食べかけのラーメンに落としていた視線をこちらへ向けた。

「あ、お疲れ様です」

慌ててマスクをつけ直す私を見て、目を細める。

「別に僕だし、マスクしなくてもいいんじゃないですか」

「い、いや、相手がどうとかそういうことは」

むしろ迅和くんだから見せたくないんだけど。
と、そこまで考えて自分の気持ちに急いで蓋をする。

「朝、大騒ぎしてましたもんね」

彼は興味なさそうに再びラーメンに視線を戻して、レンゲでスープをすくって飲み込んでいた。

「騒いだのは真奈美さんだよ?」

「紗菜さんの声もだいぶ大きかったですけど」

「あぁもうっ!思い出したくない!」

「カレーの誘惑に勝てるんですか?僕、まだラーメン半分以上残ってますよ」