月が青く染まる夜に

「的確な判断と素早い対応は、現場ではありがたいことです」

彼の視線は、動き出した現場作業員たちに向けられていた。その隣で、課長がウンウンとうなずく。

「本当にそれ!協力会社さんたちが来たらまた色々お願いしちゃうと思うから、紗菜ちゃん、今日は現場に張り付きかも。大丈夫?テントの中にいていいから」

「はい、大丈夫です。総務の先輩たちには伝えてあるので。なにかあればすぐ言ってください」


ずっとここにいては邪魔だろう、と私はその場を離れてテントへ向かう。

遠くでクレーンが動き出す。砂利が震える。無線が飛ぶ。金属の匂いが混じる空気。


「紗菜さん」

後ろから、私を呼ぶ声。もう声は覚えた。
迅和くんが、ジェスチャーで小さい四角いなにかを示す。

ふふ、と思わず口元が綻んだ。
ポケットから、さっきもらったホッカイロを出して見せる。ちゃんと開けたよ、と。

彼の目尻が下がるのが見えた。


テントに戻った私は再びバインダーを開く。

────仕事は重い。
もちろん現場に来るのは疲れる。
だけど今日は少し違った。
それがどうしてなのかは、まだ分からない。

心は軽かった。