月が青く染まる夜に

「これ、よかったらどうぞ。現場はどんどん冷えてきますから」

ぽん、と渡されたのは未使用のホッカイロ。
彼なりの、私への気遣いだ。

「ありがとう」と、素直に受け取る。

まだ開けてもいないのに、指先が温かくなる感覚を覚えた。
ほんのり明かりが灯るような、優しいじんわりとするような。その明かりは、これからもっと強くなる予感もした。


その時、無線から高玉課長の声が割り込んでくる。

『紗菜ちゃん、作業許可証の再発行って急ぎでできる?』

「はい、今から出します」

私はテントの中に置いてある簡易テーブルの上にノートPCを立ち上げた。
その間にポータブルプリンターも取り出して設置。

手際よく準備しながら、そういえばと迅和くんの姿を求めて見回したが、もうすでに彼はテントをあとにしたようだった。


テンプレートを開き、変更内容を打ち込む。

作業場所:北翔変電所 南エリア
作業内容:クレーン配置変更に伴う工程見直し
リスク項目:重機動線、感電防止、高所作業
追加措置:監視員二名配置、立入制限拡張


プリンターがうなり、熱々の紙が吐き出される。インクの匂いが鼻をつく。
私は一枚一枚に判を押し、現場責任者のサイン欄を埋めていった。

その間も、風は強い。テントの布がばたばたと鳴る。

書類を束ねて外に出ると、ちょうど臨時のKYミーティングが始まるところだった。